最新記事

アメリカ社会

アメリカ死体市場の闇 貧困層の善意の献体狙う「ボディブローカー」

2017年11月7日(火)12時40分


死体の一大市場

医学教育や研修や研究において、献体された遺体は不可欠な役割を果たしている。死体や部位は、医学生や医師、看護師や歯科医の訓練に使用される。解剖用マネキンやコンピューターシミュレーションでは、人体で得られるような触覚や精神的な体験を再現することはできないと外科医は言う。救急医療では、呼吸管挿入の訓練で人間の頭部と胴体が使用される。

手術器具や技術、移植の方法、さらには新薬や治療方法を開発するうえでも、提供された人間の部位は大いに役立っている。

「人体の提供は絶対不可欠だ」と語るのは、米医学研究連盟の会長を務めた経歴を持つシカゴのアーマンド・クリコリアン医師だ。提供された膵臓を使った研究により、1型糖尿病の新たな治療法が生まれる可能性を挙げ、「献体がなければ、そのような治療は見えてこなかっただろう」と述べた。

医学で極めて重要な役割を果たしているにもかかわらず、米国にはボディーブローカーを登録する制度は存在しない。多くがほぼ匿名で活動し、死体を入手して部位ごとに販売する取引をしている。

「死体の一大市場が存在する」と、ボストン大学ロースクールで米国の法律上の死体の取り扱いを研究するレイ・マドフ教授は指摘。「誰が死体を得て、それをどのように扱っているかについて、われわれはほとんど知る由もない」

大半の州で、誰もが合法的に人体の部位を買うことが可能だ。テネシー州のブローカーは、わずか数回のメールのやりとりで、ロイターに頸椎1個と人の頭部2つを売った。

インタビューや公的記録から、ロイターはサザン・ネバダのほか、過去5年間に米国内で活動していた33のボディーブローカーを特定した。計34のブローカーのうち、25は営利目的の企業で、残りは非営利だった。ある営利ブローカーはこの3年だけで、少なくとも1250万ドル(約14億円)を稼いでいた。

わずか4州しか献体やその販売の詳細な記録を取っていないため、このような市場がどれだけ広がっているかは定かではない。

だが、記録を取っているニューヨーク、バージニア、オクラホマ、フロリダの4州から情報公開法により得られたデータは、その全貌を垣間見せてくれる。ロイターが試算したところ、2011─15年にブローカーは少なくとも遺体5万体を入手し、18万2000個を超える部位を流通させていた。

通常、ブローカーは1体当たり約3000─5000ドル(約34万─57万円)で売るが、時には価格が1万ドルを超えることもある。通常は、顧客のニーズに合うよう死体を6つに切断する。7つのブローカーの内部文書によると、部位の価格はさまざまで、脚付きの胴体は3575ドル、頭部は500ドル、足は350ドル、脊椎は300ドルだった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨

ビジネス

英総合PMI、12月速報は52.1に上昇 予算案で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中