最新記事

中国社会

「中国の民主化なくして権利擁護なし」――盲目の人権活動家・陳光誠

2017年11月4日(土)15時40分
高口康太(ジャーナリスト)

陳は今も中国に向けてネット講演を続けている Denis Balibouse-REUTERS

<アメリカに逃れた盲目の人権活動家・陳光誠――「維権運動の英雄」が語る共産党独裁政権と中国の未来>

環境汚染、強引な土地収用、官僚の贈収賄と便宜供与......中国に山積する問題で、人民の正当な権利擁護を求めるのが「維権運動」だ。00年代にピークを迎え、汚染物質排出工場の建設撤回や汚職官僚の罷免など、共産党が譲歩する事態が相次いだ。

この運動で最も尊敬を集める活動家が陳光誠(チェン・コアンチョン)だ。目が見えないながら独学で法律を学び、当局の違法行為を鋭く追及。一人っ子政策のために横行した強制的な不妊手術を世界に告発した。

12年に陳が軟禁先の山東省の自宅を脱出し、北京のアメリカ大使館に逃げ込んで米中が外交的に対立した事件は記憶に新しい。

現在はアメリカで中国の民主化を訴え続ける彼は、共産党大会を経て独裁傾向を強める習近平(シー・チンピン)政権と祖国の未来をどう見るのか。来日した陳にジャーナリストの高口康太が聞いた。

***


――胡錦濤(フー・チンタオ)体制下では成果を上げた維権運動だが、習近平時代になって苦境に立たされている。党大会で習の権力がさらに強固になった今、岐路に立たされているのではないか?

歴代の共産党政権に本質的な違いはない。胡錦濤体制では維権運動や陳情の数が少なく、とりわけ地方政府が中央からの叱責を恐れて譲歩する事態が相次いだ。だが今や中央も強圧的な対応を支持していると、地方政府が理解するようになった。

――中国の法律を盾に政府の違法行為を追及してきたが、現在は一党独裁の終焉と民主化を求めている。

民主化が実現しなければ、根本的な権利擁護はなし得ない。この考えは以前から変わらない。中国人も80%はそう考えているだろう。運動が下火になった印象があるかもしれないが、抗議活動の数は減ってはいない。当たり前の話として外国メディアが取り上げなくなっただけだ。

――経済的に繁栄するなか、共産党の統治に理解を示す中国人も少なくない。民主主義、人権よりも経済が重要との意見だ。

そこにも誤解がある。00年代は中国政府に対する抗議の声がネットにあふれていたが、今は少なくなった。それは共産党の検閲の洗練を示している。都合の悪い書き込みを消した結果、政府擁護の声が増えたように見えているだけだ。

――あなたを含め多くの活動家が中国を離れた。国外から民主化を進めることは困難では?

国外の民主化活動家が影響力を持てるかどうか、それはひとえに中国の人々につながるチャンネルを持てるか否かに懸かっている。私はこれまでに中国国内向けに11回もネット講演を行った。検閲を回避して平均3万人が視聴している。さらに、検閲されづらい音声ファイルの形式で講演は拡散されている。 私以外にも同様の取り組みを続ける活動家はいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    ロシア軍が従来にない大規模攻撃を実施も、「精密爆…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中