中絶規制をプーチンに迫るロシアの宗教右派
伝統回帰の動きが拡大
こうした法改定の背景には、ロシアの家父長主義的な伝統を強化し、強い指導者として国を統率しようとするプーチンの思惑があると、米シンクタンク・外交問題評議会のケート・シェクターはみる。「強いリーダーシップが打ち出され、男女の伝統的な役割への回帰が叫ばれるなかで、もともとあった女性蔑視が一層ひどくなっている」
伝統回帰の動きは急速に強まっている。米調査機関ピュー・リサーチセンターの最近の調査によると、91年のソ連崩壊の前後にはロシア人の3分の1強にすぎなかった正教徒が、現在では70%を超えている。
正教会の価値観は女性の権利拡大の流れとしばしば衝突する。ピューによれば、正教徒が多数を占める国々では、女性は伝統的な役割にとどまるべきだという考えが根強い。ロシアでは妻は夫に従うべきで、女性の社会的役割は子育てだと答えた人が36%に上った。
宗教右派の極端な主張には一定の距離を置くプーチンだが、伝統回帰の運動は奨励している。プーチンが解き放った勢力が制御不能なほど拡大しているとの見方もある。「この手の動きはいったん解き放つと、もう抑え込めない」と、人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのユリア・ゴルブノワは言う。
「命のために」の集会は楽観ムードに包まれていた。プーチン政権は必ず中絶禁止に踏み切るというのだ。「人口危機の克服を支援したい」と、シテュデニキナは熱く語った。「私たちは大統領のために闘っている」
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[2017年10月31日号掲載]