ジンバブエの英雄から独裁者へ、ムガベの37年
以来、経済はやや落ち着いたが、失業率は高いままで食料は不足。中央銀行は外貨不足のため16年に「ボンドノート」と呼ばれる自国版ドルを発行。外国では通用せず、第2のハイパーインフレが起きるのではないかという不安をかき立てている。
静観を決め込む欧米諸国
こうした情勢の中で牧師のマワリレが率いる市民運動は大きな注目を集め、昨年7月には大規模なストを主導した。マワリレは今年9月に逮捕されて国家転覆罪で起訴され、11月中に裁判所に出廷する予定だ。
マワリレに言わせれば、ムガベがジンバブエに最近残した「遺産」は、「経済とインフラの大きな破壊」と「天然資源の略奪」だ。後継者は直ちに改善すべきだと、マワリレは言う。「ジンバブエ人は決して高望みなどしていない。機能する国家を求めているだけだ」
後継者と考えられているのはムナンガグワ。何十年にもわたるムガベの側近で14年に副大統領に就任したが、今年11月6日に不敬と詐欺の疑いで職を追われた。
ムナンガグワの失脚は、与党のジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)の長期にわたる亀裂の結果と考えられる。次期大統領にムナンガグワを推す派と、ムガベの妻グレースを支持する派の2つに分裂したのだ。
ムガベがムナンガグワを解任したのは、妻を後継者に指名して「ムガベ王朝」を築く一歩だと考えられる。しかし軍のムナンガグワ支持者たちは11月15日、その流れを変えようとした。
軍はZANU-PFのグレース派の何人かを拘束したと伝えられる。しかしZANU-PFのジャスティス・メーヤー・ワドヤジェナ議員は、党は単に「指導層の入れ替え」を行っているだけと主張する。
ムナンガグワを「私の政治の師」と呼ぶワドヤジェナは、ムガベはもはや地位を維持できず、ZANU-PFは「ジンバブエのワニ」と呼ばれるムナンガグワの下に結束すべきだと言う。「ムナンガグワはこの国の経済を救うビジョンだけでなく、政治的意思も持っていると信じられる唯一の人物だ」と、ワドヤジェナは言う。
ジンバブエの明日は、よく見えない。ムガベはハラレの自宅に軟禁状態で、南アの特使が調停のためにジンバブエ入りした。アフリカ連合(AU)の指導部は軍によるクーデターとみられる動きを非難し、欧米諸国は行方を見守りつつ沈黙している。
だがムガベが失脚したとしても、ジンバブエの前には問題が立ちはだかっていると、マワリレは言う。
「私たちは国民が自由であるジンバブエをずっと夢見てきた。それだけだ。今のジンバブエ人は何を求めているかと聞かれれば、自由の一言だ」とマワリレ。「その夢を本物にしなくては」
<本誌2017年11月21日発売最新号掲載>
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