アメリカを捨てるインド移民
16年度に、アメリカで働くためにH-1Bビザを取得したインド人は12万人以上で、他の国の出身者よりもはるかに多い。毎年抽選で発給される8万5000件のH-1Bビザのほとんどは人材派遣会社の申請によるものだが、そうした会社が技術職に雇用する外国人のほとんどはインド人だ。
何年もの間、マイクロソフトやグーグルなどの大手企業は、必要な能力を有するアメリカ人が足りないと主張し、就労ビザの割り当てを増やすよう政府に申し入れてきた。ただし一方には、技術系の学位を持つアメリカ人はたくさんいて、業界のニーズに応えられるはずだという反論もある。
この4月、トランプは「アメリカ・ファースト」政策の一環として就労ビザ制度の見直しを発表。技術レベルが高く、給与水準も高い外国人だけに就労ビザ発給を限定したいと言い、ビザ取得要件を変更する大統領令に署名した。
こうした政策はアメリカ留学を考えるインド人大学生や大学院生を落胆させるだろうと、シアトルの移民弁護士タミナ・ワトソンは言う。「長期のキャリアを望めないなら、彼らがアメリカに来る理由はなくなる」
アメリカ以外の選択肢
外国人労働者の不満を受けて、ブレント・レニソン弁護士は昨年、ポートランド連邦地方裁判所にH-1Bビザ制度の違法性を訴えた。「このままの状態が続けば、アメリカに来ないことを選ぶ人も出てくる。アメリカで教育を受けた留学生もアメリカに残らなくなる」
このシステムは以前から機能不全に陥っていた。政府機関の官僚主義のせいで就労ビザの発給は既に滞っているため、近年では一流大学の卒業生でさえ就労ビザを取得できる保証はないという。
ビザを取得しても、まだ地位の安定は得られない。雇用者が永住権申請のスポンサーになってくれても、認可が下りるまで何年も待たされる。
ワシントンのシンクタンク、ケイトー研究所の移民政策アナリスト、デービッド・ビールによれば、国内外のインド人200万人がグリーンカードの発給を待っている。システムに変更がない場合には処理に10年以上かかる可能性があるという。
それならカナダを選んだほうがいい。トランプが大統領選に勝利した後、カナダ政府は国内で事業を行う企業で働く高度な専門知識を持つ外国人労働者のために、2週間でビザと労働許可証を発行すると発表した。
一方のアメリカでは多くの外国人労働者や技術者が、永住権申請のスポンサーになってくれた企業から離れられずにいる。
オレゴン州のサヘイは、その地獄のような日々をよく知っている。待てば事態が改善されるという望みも、トランプ政権の誕生で消えた。「不公平と言えるかどうかは分からない」と彼は言う。「ルールは政府が決めるもので、人はそれに従わなければならない。インド人はずっと、そうしてきた。ひたすら待ってきた」
インドにいる彼の姪と甥は、今までアメリカへの移住を熱望していたが、心変わりしたらしい。トランプの登場でアメリカのイメージが変わったからだ。
サヘイによれば、姪も甥もこう言ったという。「行かないよ。外国ならどこの国でもいいけど、アメリカはイヤだ」
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[2017年10月24日号掲載]