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受験地獄は過去の遺物、今や合格率93%の「大学全入時代」

2017年10月5日(木)15時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

こうした状況の中、受験生を顧客とする予備校産業は苦境に立たされている。<表1>は、90年代以降の予備校生徒数の推移をみたものだ。予備校とは、受験・補修を行う専修学校と予備校という学科分類の各種学校の両方を指す。

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予備校の生徒数は90年では19万5000人だったが、2015年では4万6000人程まで減っている。この四半世紀で、約4分の1に減ったことになる。進学率の上昇によって、大学入学者の数が増えているのとは対称的だ。

競争が緩和されているので、予備校を利用しない受験生も増えている。大学入学者に対する予備校生徒の比率は、予備校依存(利用)度の指標になるが、値は減少の一途をたどっている。

大学進学人口(18歳人口)の減少と「予備校離れ」のダブルパンチは大きい。公務員試験予備校などへ鞍替えするケースもあるというが、事業の多角化を図らなければ生き残りも難しくなる。2014年に、大手予備校が校舎の大量閉鎖に踏み切ったのは記憶に新しい。

状況が厳しいのは大学も同じだ。来年から18歳人口が急減する「2018年問題」に関係者はおののいている。今の大学進学率(50%程度)が上がらない場合、2030年頃には少なからぬ大学が倒産するとみられる。

ベースの18歳人口が減るので、現在の入学者数を維持することは進学率が60%、70%にならないとできないが、今後どう推移するかは未知数だ。

大学がそれ自体の維持存続のために、進学率の上昇をあおるようなことはするべきではない。18歳時に大学への進学が強制される社会は健全とはいえない。顧客に広げるべきは、青少年ではなく大人だ。間もなく人口比が「子ども1:大人9」の社会になるが、やせ細っていく子ども人口を奪い合うのは見苦しい。彼らの人生にも悪影響を及ぼす。

青年期の教育機関から、大人の学びのセンターとしての存在に変わることができるか。日本社会の人口動態は大学に対して、未来形の姿への変身を求めている。

<資料:文科省『学校基本調査報告書』

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