欧州が恐れる「融和のメルケル時代」終わりの始まり
消えないポピュリズムの脅威
欧州政界の主流派は、英国民投票での欧州連合(EU)離脱決断、そして米大統領選でのトランプ勝利をもたらしたポピュリズムの大波が、2017年には欧州大陸を呑み込むのではないかと懸念していた。
だが反対に、オランダでは極右の扇動主義者ヘルト・ウィルダース氏よりもリベラルな現職のマルク・ルッテ首相が支持され、フランスでも、堂々とEU支持を掲げる中道派マクロン氏が極右「国民戦線」のマリーヌ・ルペン氏に圧勝した。
今回のドイツ総選挙でも政界の中道派は持ちこたえた。中道右派と中道左派の得票率は73%と、極右のAfDと左翼強硬派である「リンケ」を合わせた約22%を上回っている。
だがこの選挙結果は、ポピュリズムの潮流がまだ途絶えていないことを欧州各国に思い起させた。そして、恐らく第2次世界大戦以来、欧州にとって最も困難となるであろう10年に、ドイツとメルケル首相が体現していた「安定の柱」に生じた亀裂を露呈した。
「欧州市民の立場からすれば、ドイツの選挙結果は二重の打撃だ」と世界貿易機構(WTO)の元事務局長パスカル・ラミー氏は語る。「安定性の象徴となっていたメルケル首相が、政治的に弱体化する一方で、反欧州勢力が前進したのだ」
ドイツ内外で、今回の結果は「メルケル時代」の終わりの始まりだと評する声がある。メルケル首相は25日、4年の任期を全うすると約束したものの、2─3年で後継者に道を譲るのではないかと憶測する者は多い。
今回の選挙によってメルケル首相の「レームダック化」が、誰の予想よりも大幅に早まる可能性がある、とINGのドイツ担当エコノミスト、カルステン・ブルゼスキ氏は語った。
フランスなどの政府関係者は、次の大規模な欧州改革はメルケル首相抜きで行わなければならない可能性を示唆する。他にも、「メルケル後」のドイツが、どのような針路をとるのかを心配する声も上がっている。