最新記事

日本外交

ロヒンギャ弾圧に不感症な日本外交

2017年9月28日(木)15時30分
前川祐補(本誌編集部)

確かに、一部の暴徒化したロヒンギャが当局に危害を加えたとの報道がある。だが国連も認めるように、その原因となったのは一般ロヒンギャに対する弾圧だ。外務省はその点、当局を批判する声明を出していない。

被害者と加害者の立場が逆ではないかとの本誌の取材に対し、外務省は談話をなぞるような回答をした上で、「約40万人が避難民として流出していることに対し、深刻な懸念を有している」という、堀井政務官が後日ミャンマー政府に伝えた内容を後付けで補足した。

不思議なことに、談話にはロヒンギャという言葉がひとことも出てこない。欄外で「参考」として、暴徒化したとされる「アラカン・ロヒンジャ救世軍」という武装勢力の固有名詞を出しているだけだ。

当時、国連だけでなく、世界各国のメディアが繰り返し報じていたロヒンギャの言葉が、なぜこの発表を含め外務省の公式文書には出てこないのか。実は、これもミャンマー政府の「意向」に沿うものだ。

magw170928-rohi02.jpg

ミャンマー政府に対する非難を日本政府に求める在日ロヒンギャのデモ行進(東京・渋谷、9月) Yusuke Maekawa-NEWSWEEK JAPAN

ミャンマーに詳しいジャーナリストの田辺寿夫によれば、ミャンマー政府はロヒンギャという名称のみならず、その存在すら認めていない。そのため日本も「ミャンマー政府に忖度しているのだろう」と、田辺は言う。

実際、ロヒンギャへの支援について9月19日に緊急記者会見を行った河野太郎外相も、「ラカイン州のムスリム」と呼んだ。政府間の協議ではロヒンギャの呼称を使用しているのかと本誌が外務省に問うと、「ミャンマー政府とのやりとりの内容について言及することは差し控えたい」と回答するだけだった。

日本がロヒンギャ問題で国際社会に反するような動きをしたのは今回が初めてではない。今年3月、国連人権理事会は弾圧の実態を調べるために「事実調査団」設置の決議を採択した。ミャンマーでの調査活動を求めるもので、弾圧の真相が明らかになると期待された。

結局、ミャンマー政府が調査団の受け入れを拒否したため現地調査は実現していない。ただ問題なのは、日本政府がこの調査団の設置に不支持を表明していたことだ。ミャンマー自身が判断する事案だからというのが理由のようだが、HRW日本代表の土井香苗は日本政府の姿勢を「破廉恥」と切り捨てる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中