絶対的に不平等な「税金逃れ」と「税金取り立て」の実態
もちろんこれはほんの一例で、他にもさまざまな「抜け道」が紹介されている。そこから分かるのは、それらをうまく利用して税金逃れをしている人たちが確実に存在するということだ。そして、本書でその後浮き彫りにされるのは、重税にあえぐ人々の実態である。
首都圏の私鉄駅前。店を構えて五十年余の青果店も、初めて消費税を滞納した。十五年二月末が納付期限だった消費税約七十万円を一年間の分納にしてもらった。(中略)
全盛期は客が毎日千人を超えたが、大型店に流れてじわじわと減り、経営が苦しくなった。十年ほど前から売れ残りの自家消費を除いて給与を返上し、逆に自分の蓄えを会社につぎ込んで経営を維持している。会社への貸付残高は一億円を超えた。
一〇年頃からは月十五万円の年金を会社の支払いに充てている。一緒に店を切り盛りする息子には給与を遅配することもある。生活費は妻の年金が頼りだ。
一四年は税率八%の期間が九カ月。一五年は丸一年だ。
「来年はどうするの」。分納の交渉中、税務署の担当者から何度も聞かれたが、廃業はできない。息子はもう転身が聞かない年齢になっているので、続けるしかない。(69~70ページより)
宮城県仙台市のある飲食店は二〇一五年初め、営業中に予告もなく店に入ってきた税務署員にレジの中にあった現金九万円を差し押さえで取られた。レジを見ると、千円札二十枚しか残っていなかった。署員は店主の妻に近寄って尋ねた。
「消費税の滞納、いくらかわかっているのか」
妻が金額を答えると、「何で払わない。大変でも払っているところはある」などと詰め寄ったという。
その飲食店は家族で切り盛りし、最盛期は年商一億円を超えていた。だが、父親が病気になって休んだり、東日本大震災で客足が減ったりして赤字に陥った。消費税などの滞納額は、割り増しの延滞税を含めて二百万円を超えた。
そこで税務署と相談し、一四年前半までは分納を続けていた。しかしその後、父親がまた入院し、余裕がなくなった。延滞税を減免する納税猶予制度があるが、店主は署員から説明を聞いたことがないという。
店主は差し押さえの時の税務署員の態度を思い出して憤る。
「客の前でプライバシーも何もありませんでした。営業妨害だ」(89~90ページより)
これらは消費税についての話だが、もちろんそれだけが税ではない。社会保険料、固定資産税など、さまざまな負担が市民を苦しめているのだから。
しかし税制について考える際に気になるのは、「ことの重大さ」をきちんと認識している人がどれだけいるのだろうかということだ。もちろん、それは私自身にも当てはまることなのだが、「税金、高すぎるよねー」と愚痴りながらも、本当にその全体像を把握できているのだろうかという疑問は残る。その点は、本書でも指摘されている。