今こそ、シリアの人々の惨状を黙殺することは人道に対する最大の冒涜である
ロシア、トルコ、イランがイドリブ県を三つに分割することに合意
緊張緩和地帯設置がもっとも難航したのは、シャーム解放委員会が勢力を温存し、それ以外の反体制派と渾然一体化していたイドリブ県だった。だが、それも、9月14日と15日に開催されたアスナタ6会議で、ロシア、トルコ、イランが同地を三つのカテゴリに分割することに合意し決着した。
三つのカテゴリとは、(1)ロシア主導のもとでシャーム解放委員会を殲滅するとともに、それ以外の武装集団も同時に排除したうえで、非武装の文民機関がシリア政府と停戦し、自治を担う地域(第1地域)、(2)ロシアとトルコ両国の主導のもとでシャーム解放委員会を殲滅する地域(第2地域)、(3)トルコ軍の監督のもとで「家を守る者たち」作戦司令室がシャーム解放委員会を殲滅する地域(第3地域)、である(地図2を参照)。
シリア政府と反体制派の停戦プロセスは、反体制派をアル=カーイダの系譜を汲む「テロ組織」と「合法的な反体制派」に峻別することが最大の難関だった。だが、ロシア、トルコ、イラン(さらには米国)は、シャーム解放委員会とそれに与する組織・個人を「テロとの戦い」を通じて壊滅し、それ以外の武装組織をシリア政府と停戦させるという明確なコンセンサスに遂に達したのである。
地図2 勢力図(2017年9月21日現在)
「テロとの戦い」からイランの脅威に対するイスラエルの安全保障に推移
一方、イスラーム国に対する「テロとの戦い」をめぐる取引は当初、イランの脅威に対するイスラエルの安全保障を確保するという別次元の問題として推移した。
発端となったのは、イラン革命防衛隊が支援するアフガン人民兵やレバノンのヒズブッラーなどからなる「外国人シーア派民兵」のタンフ国境通行所(ヒムス県南東部)方面への5月の進軍だった。通行所一帯を2016年から不法に占拠し、軍事拠点化していた米国は、「自衛権を発動する」として強く反発、「外国人シーア派民兵」の拠点や車列を爆撃し、この地域に接近しないようイランに警告した。だが、「外国人シーア派民兵」とシリア軍は、タンフ国境通行所を迂回して東進を続け、6月半ばにはイラク国境に到達、イラク領側から西進した人民動員隊と対面を果たした。
これにより、イランは、テヘランからバグダード、ダマスカスを経てベイルートに至る陸上路を確保し、イスラエルの危機感を煽った。
また、ダイル・ザウル県南西部への進攻を模索していた米国およびその支援を受ける「ハマード浄化のために我らは馬具を備え」作戦司令室(別称「土地は我らのものだ」作戦司令室、自由シリア軍砂漠諸派)の進軍を阻止し、同地でのイスラーム国に対する「テロとの戦い」の主導権を奪った。