最新記事

バングラデシュ

ロヒンギャ取材のミャンマー人記者逮捕  バングラデシュ当局がスパイ容疑で

2017年9月22日(金)18時34分
大塚智彦(PanAsiaNews)

バングラデシュ・テクナフに逃げてきたロヒンギャ難民。船が転覆し、女性は生後40日の息子を失った Mohammad Ponir Hossain-REUTERS

<ロヒンギャ難民を取材中のミャンマー人記者が、バングラデシュで逮捕されて2週間。安否が気遣われている。報道に制限がかかればいちばん困るのはロヒンギャだ>

ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの人々が、ミャンマー軍の無差別攻撃から逃れて隣国バングラデシュに大挙して逃れるなか、バングラデシュで取材を続けていたミャンマー人記者がスパイ容疑で現地警察に逮捕されていたことが明らかになった。

「国境なき記者団」(RSF)やミャンマーのメディアが9月20日に伝えたもので、バングラデシュ南東部のコックス・バザールという町でロヒンギャ難民を取材していたミャンマー人フォトジャーナリスト、ミンザヤール・オー記者とアシスタントのクン・ラット記者の2人が9月8日に地元警察に逮捕された。

ミャンマーでは8月25日に西部ラカイン州でロヒンギャ武装集団によるとされる警察署襲撃事件をきっかけに軍による掃討作戦が続き、ロヒンギャ族の殺害、暴行、家屋放火などが続いている。このためこれまでに約40万人がバングラデシュに避難する事態となっており、ミャンマー政府は「人権侵害」「民族浄化」などと国際社会から厳しい非難を浴びている。

誤情報、観光ビザそしてスパイの容疑

ドイツの雑誌「GEO」の取材のためバングラデシュ入りして、ロヒンギャ難民の取材を続けていたミャンマー人記者の2人は、7日に逮捕されてから一度首都ダッカに連行されて秘密の取り調べ尋問を受けた後、コックス・バザールの警察署に戻され、現在は同署に拘置されているとみられている。

RSFや地元の弁護士などによると、2人に対する逮捕容疑は複数あるという。まず「誤った情報の流布」で、ロヒンギャ族の難民に関して「事実に基づく正しい報道をしていない」というもの。次が「誤った資格での活動」で、本来バングラデシュでの取材報道活動には外国人報道関係者は「ジャーナリストビザ」の取得が必要だが、2人は「観光ビザ」で入国し取材・報道に携わっていたという容疑。

そして最後が「スパイ容疑」でコックス・バザールの地元警察署長によると「2人はミャンマー当局のためにロヒンギャ難民の情報を収集していた疑いがある」という。バングラデシュではスパイ罪は最高で禁固5年が科せられる可能性がある。

2人の記者との面会が実現していない地元の弁護士によれば「誤った情報の流布」容疑は実態も根拠も不明であり、観光ビザでの取材活動は「軽い罪に過ぎない」、「スパイ容疑も証拠がない」などとして保釈を申請したものの、9月19日に保釈申請は却下されたといる。このため現在2人の安否が非常に気遣われる事態となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中