最新記事

トランプvs.金正恩 「反撃」のシナリオ

【戦争シナリオ】北朝鮮はどうやって先制攻撃してくるか

2017年9月12日(火)16時35分
チェタン・ペダーダ(元在韓米軍情報将校)

攻撃を分散させる可能性もある。北朝鮮は世界中で数多くのスパイを雇い、さまざまなミッションを実行させているという。北朝鮮のスパイが韓国内で大量破壊兵器による攻撃を行うことも考えられる。

【参考記事】世界最恐と化す北朝鮮のハッカー

金融機関や電力網も標的に

より恐ろしいのはサイバー攻撃だ。過去数年、北朝鮮は身代金要求型ウイルス「ワナクライ(WannaCry)」を世界中で流行させ、バングラデシュ中央銀行の口座から資金を盗み、ソニー・ピクチャーズエンターテインメントから機密データを流出させたといわれている。北朝鮮サイバー軍は自国内の施設が破壊される場合も想定して世界各地にサイバー攻撃の拠点を分散させ、どこからでも攻撃できるシステムを構築している。

過去の金融機関へのサイバー攻撃を考えると、北朝鮮は韓国とアメリカの主要銀行のシステムを停止させ、資金の流れを妨害できる可能性がある。そうなれば経済は止まり、効率的な物流システムが機能しなくなって都市は混乱する。ビジネスは崩壊し、市民は買いだめに走って店舗の棚を空にする。

さらに標的として考えられるのはソウル周辺の電力網だ。これが攻撃されると食品を保存できず、医療機器が使えないため病人は死んでいき、個人間の通信も不可能になる。米韓の軍隊や救急隊は対応に追われ、その隙を突いて北朝鮮軍は容易に南下できる。

使われるのが通常兵器であろうとなかろうと、戦争開始から数時間で犠牲者は何万人にも達し、ソウルの多くの部分は瓦礫の山と化すだろう。ソウルは世界でも人口密度が極めて高く、首都圏に総人口の約半分に当たる2500万人以上が住んでいる。限定攻撃でも大惨事になるのは目に見えている。

戦闘が始まればアメリカは在韓アメリカ人の避難計画を実行する。彼らを近くの基地や都市に移動させ、空路で戦場から離れた地域や安全な国に脱出させる。それでも混乱で多くの人々が命を落とすだろう。ソウル市民も家を捨てて逃げようとする。しかし北の攻撃は続き、自動車用のガソリンは手に入りにくく、道路も封鎖されるため市内からの脱出は困難だ。

脱出ではなく、市内にある地下鉄や地下道、防空壕に逃げ込むという選択肢もある(市民はこの訓練を繰り返し受けている)。いくつかの地下鉄駅は攻撃に備えて深く掘られた場所にあり、何万人も収容できる。発電機や給水設備が用意された駅もある。

韓国政府は避難民用キャンプを設置し、必需品を提供しようとするはずだ。とはいえ、うまくいくかどうかは分からない。明らかなのは近現代史上最悪の人道危機が起こりかねないということ。多くの人々が国内避難民となってさまようという悲惨な状況だ。

※「トランプvs金正恩 『反撃』のシナリオ」特集号はこちらからお買い求めいただけます。

【参考記事】マティスの「大規模軍事攻撃」発言で信憑性増した対北軍事作戦

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中