最新記事

フィリピン

家族思いのドゥテルテ比大統領、長男に麻薬組織関与疑惑

2017年9月11日(月)15時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

ドゥテルテ大統領は大統領に就任する前に長年市長を務め、やはり強硬な麻薬犯罪対策などで治安を飛躍的に向上させた実績があるミンダナオ島ダバオ市。現在はドゥテルテ大統領の長女、サラ・ドゥテルテさん(39)が市長、そして長男のパオロ氏が副市長としてドゥテルテ大統領の市政を引き継いでいる。カルピオ氏はサラ市長の夫である。

こうしたドゥテルテファミリーが完全に市政を掌握しているダバオでは、麻薬関連犯罪そのものは封じ込められている一方で、有力者が完全にコントロールして「安定供給が確保されている」との情報も根強く、今回のパオロ、カルピオ両氏に対する疑惑もこうした情報を裏付ける形となっている。

ドゥテルテ大統領はかつて麻薬犯罪に関わる容疑者は少年であれ容赦しない、との立場を公にして批判されたこともあるが、身内である長男、女婿が麻薬犯罪にもし関与していたとなれば、政治的には厳しい局面に直面することになる。次期大統領候補として名前も挙がっているサラ市長の政治生命も完全に絶たれることになるだけに、疑惑の完全否定、払拭に躍起となるのは当然だ。パオロ氏らの名前を聞いた、と最初に証言した通関関係者もその後「2人の関与の事実はない」と態度を180度転換しているが、これも政権側からの圧力に屈した結果との見方が強い。ドゥテルテ大統領自身は、まだ息子たちの疑惑については何も発言していない。

離婚歴あるものの家族思いの大統領

ちなみにドゥテルテ大統領には、1948年に結婚して2000年に離婚した前妻と、現在生活を共にしている内縁の妻がいる。ドイツ系の前妻エリザベス・ジンマーマンさんは現在がん闘病中とされ、その治療費一切はドゥテルテ大統領が負担している。2人の間には3人の子供があり、長男がパオロ副市長、長女がサラ市長、次男のセバンスチャン・ドゥテルテ氏はサーファーらしいというだけであまり素性が明らかになっていない。

ドゥテルテ大統領はダバオ市長時代に家族を連れて来日、温泉地や雪国を訪問して家族サービスするなど家族思いとしても知られていた。だがその一方で結婚中の1990年代から看護師であり実業家でもあるフィリピン人のハニーレット・アバンセーニャさん(46)と交際していた。ハニーレットさんとの間には13歳になるベロニカさんという娘もいる。

いずれにしろ、今回の身内の疑惑、それも大統領自身が最も強硬に進めている麻薬問題に関連した疑惑は、南シナ海問題、ミンダナオ島マラウィ市で続く武装勢力との戦闘に加え、ドゥテルテ大統領にとって頭の痛い問題になりそうだ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ制圧のクルスク州、ロシアが40%を奪還=

ビジネス

ゴールドマンのファンド、9億ドル損失へ 欧州電池破

ワールド

不法移民送還での軍動員、共和上院議員が反対 トラン

ワールド

ウクライナ大統領、防空強化の必要性訴え ロ新型中距
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中