最新記事

人道問題

コンゴ・カビラ大統領とルワンダの利権 ----コンゴ中央部、国連とムクウェゲ医師の「忘れられた危機」

2017年9月11日(月)18時00分
米川正子(立教大学特定課題研究員、コンゴの性暴力と紛争を考える会)

なぜコンゴ政府がムクウェゲ医師を敵視しているのかというと、同医師に大統領候補として出馬してほしいと願っているコンゴ人が多いからである。それを抑圧するために、国際メディアと違って、国内メディアは一切ムクウェゲ医師の活動を報じることが許されていない。同様に、上記のカサイ出身のチセケディ野党党首は今年2月ベルギーで亡くなったのが、半年以上経った現在でも、彼の遺体は祖国に輸送されず、死体安置所に保管されたままである。コンゴでチセケディの葬式を行うとなれば、J・カビラに対する反発が煽る可能性があると政府は恐れているのだ。カビラはとにかく反体制の人間を黙殺させたい考えのようである―例え死者に対してもだ。埋葬の権利も保証されていないなんて、異常としか言えない。

このようにいつ殺害されても不思議ではない環境にいるにもかかわらず、ムクウェゲ医師は6月30日のコンゴの独立記念日にビデオメッセージを公開し、国歌「起て、コンゴ人よ」を引用しながら、コンゴ国民、特に若者に対し、コンゴの真の意味での独立、自由、尊厳を訴えた(カビラ「大統領」は「病気」のために、当日の演説をせず)。以下はその演説の翻訳の要約である。


コンゴはこれまで、紛争、他国や一部の権力者による搾取、介入など、凄惨な歴史を経験してきた。現在もなお、殺戮が続いており、司法府や立法府は機能不全に陥り、搾取の構造が残存している。しかし、かつて独立を果たした祖先が描いた、強く美しいコンゴを築き、よりよい未来を後世へ引き継ぐためには、コンゴの歴史に向き合い、他の誰でもないコンゴ人が主権と尊厳を取り戻すべきであり、団結して立ち上がらなくてはならない。そのためには、民族の多様性を包含した「コンゴ人」という確固たるアイデンティティに基づく統合、全ての人々による努力、連帯が必要であり、現実に立ち向かう力と自信を取り戻すことで、失われた尊厳を回復しなければならない。また、若者は過去の過ちを決して繰り返さぬよう、自らの自由と運命を取り戻し、新たな道を進むべきである。

ムクウェゲ医師が夢描くコンゴが近い将来、築くことができるよう、心から祈りたい。

yonekawa161018-2.jpg[執筆者]
米川正子
立教大学特定課題研究員、コンゴの性暴力と紛争を考える会の代表。昨年10月のムクウェゲ医師の初来日を企画・アテンドした。
国連ボランティアで活動後、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)では、ルワンダ、ケニア、コンゴ民主共和国、スーダン、コンゴ共和国、ジュネーブ本部などで勤務。コンゴ民主共和国のゴマ事務所長を歴任。専門分野は紛争と平和、人道支援、難民。著書に『世界最悪の紛争「コンゴ」~平和以外に何でもある国』(創成社、2010 年)など。

[協力]
村松智妃呂(国際基督教大学大学院)
溝端悠(東京大学大学院)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米エネルギー長官、戦略石油備蓄の放出停止検討 

ワールド

ベトナム・米国が協定に調印へ、商工相訪米で当局者と

ワールド

フィリピン前大統領逮捕、麻薬戦争巡りICCが逮捕状

ワールド

ロシア首都圏に大規模無人機攻撃、空港が閉鎖 火災発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 2
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 3
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 4
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 5
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 6
    「中国の接触、米国の標的を避けたい」海運業界で「…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    「汚すぎる」...アカデミー賞の会場で「噛んでいたガ…
  • 9
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 10
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 8
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中