最新記事

ルポ

トランプ政治集会の中で聞いた、「優しい」支持者たちの本音

2017年8月24日(木)06時33分
小暮聡子(アリゾナ州フェニックス)

ny170824-2.jpg

カンザス州から18時間運転して、午前2時に着いたロレッタ・キャバレル Satoko Kogure-Newsweek Japan

キャバレルがトランプを支持する理由は明快だった。

――自分は「不法滞在の」移民に反対だ。夫の姪2人が3歳と4歳のときにメキシコからやって来て、10歳と11歳で彼女たちの両親が強制送還されると2人を自分たち夫婦の養子にして育ててきた。自分たちはすべて合法的な手続きをして、米国市民として多額の税金を納めている。夫の叔父はメキシコで、アメリカへの移民希望者リストに17年間も名前を載せて合法的に入国できる日を待っている。(ニュースで見た、トランプの大統領令を受けて今年2月に強制送還されたメキシコからの不法移民の女性は)社会保障番号を偽装していた。もし私が同じことをやったら、家族と離れ離れになることなんて誰にも気にされず刑務所送りにされるのに、なぜ不法移民だと保護せよと言うのか。トランプが国境に壁を作るというなら私は支持する。

そこまで語り、星条旗の柄にマニキュアを施した爪を突き出して「見て!」と笑った。キャバレルとは、「聞きたいことがあったら、いつでも電話してね」と言われて別れた。

「トランプは、ジーザスと同じ」

午後4時、スマートフォンが気温42度を表示するなか、私も集会に入るための長い列に並び始めた。ジリジリと照り付ける日差しで、肌が痛いほど暑い。

サウナの中にいるような息苦しさの中、トランプ支持者たちは巨大なコンベンションセンターを6ブロック分ほど取り囲む長蛇の列にどんどん加わっていく。思わず脱落したくなるほどの暑さに、支持者たちの熱さを肌で感じる。

熱狂的なトランプ支持者が大挙する集会で「ニューズウィーク」の肩書を名乗るのは、少し緊張する。トランプ支持者にとってニューズウィークは、「フェイクニュースを伝えるリベラルメディア」の一角を成す存在だ。

あとどれくらいで集会会場に入れるか分からないなか、周りの支持者にいつ取材を切り出そうかと思案していると(あまり早すぎると険悪になった場合に待ち時間が辛くなると思った)、後ろに並んでいたヒスパニック系の女性に「どこのメディアなの?」と笑顔で話しかけられた。メモとペンを片手に持ち、赤いトランプ帽ではなく(熱中症予防に買った)「ARIZONA」と書かれた黒いキャップをかぶっているアジア人は、列の中ではかなり浮いた存在だ。

バレてしまった、と思いつつ、「リベラリズムは心の病気だ!」と書かれたプラカードを持った少年が通り過ぎるのを待ってから、話しかけてきたセリア・ゴンザレス(51)に所属を明かして取材を始めた。周りのトランプ支持者たちは、「ニューズウィーク」と言うと一様に顔をひきつらせるが、「日本語で発売している日本版だ」と付け加えるとかなり和む。

トランプの熱狂的な支持者だというゴンザレスは、フェニックスから東に車で30分ほどの都市メサから来ていた。セラピストであり、6歳のときにメキシコから来た移民だという。

ヒスパニックがトランプを支持する――これは、2016年の大統領選で想定外の「サプライズ」の1つだった。

アリゾナ州は1952年以降の大統領選で、96年にビル・クリントンが勝利した以外は共和党が赤に染めてきた"レッドステート"だ。それでも、ヒスパニックの人口が州の約31%を占めるなか、メキシコからの移民を「犯罪者」や「レイプ魔」と呼ぶトランプは苦戦するのではないか。そんな事前の予想を覆し、トランプは約49%の得票率で勝利し(ヒラリー・クリントンは約45%)、ピュー・リサーチセンターの調査では同州のヒスパニック票の28%を獲得していた(クリントンは66%)。ヒスパニックの有権者の4人に1人以上が、トランプに入れたことになる。

【参考記事】元大手銀行重役「それでも私はトランプに投票する」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中