シリアで「国家内国家」の樹立を目指すクルド、見捨てようとするアメリカ
自治体制を確立したことを誇示
こうした情勢のもとで発表されたのが行政区画法と議会選挙実施決定だった。行政区画法は、図で示した通り、四つの地区から構成されていたロジャヴァ支配地域を、「地域」>「地区」>「郡」>「市」>「区」>「町」>「村」>「農場」>「コミューン」という上意下達の行政単位に再編することで、北シリア民主連邦の領土を明示した。
一方、議会選挙実施決定は、9月22日にコミューン首長、11月3日に村、町、区、市、郡、地区の議会、そして2018年1月19日に地域の議会、および連邦全体の議会に相当する「北シリア民主人民大会」の議員を行政区画法に基づいて下意上達的に選出していくという内容だった。
図 ロジャヴァおよびシリア民主連合の行政区画
地図2 北シリア民主連邦の行政区画(ジャズィーラ地域、ユーフラテス地域)
地図3 北シリア民主連邦の行政区画(アフリーン地域)
PKKがトルコからの分離独立をめざしてきたこと、イラク・クルディスタン地域で独立の是非を問う住民投票の実施が決定されたこと、そして「北シリア民主連邦」という国家を思わせる呼称...。これらからの類推で、行政区画法と議会選挙実施決定を、シリアからのクルド人の独立に向けた布石と解釈することも不可能ではない。
だが、PYDは、シリアという既存の国家枠組みのなかで民族的・宗派的多元主義と分権制を保障する体制の樹立をめざしており、少なくとも現時点では、暫定的な移行期を終えて、恒久的な自治体制を確立したことを、シリア内戦の主要な当時者である諸外国に誇示し、その存在を既成事実として認めさせるのが狙いだと理解した方が妥当だろう。