最新記事

中国

さまようウイグル人の悲劇

2017年8月18日(金)18時45分
水谷尚子(中国現代史研究者)

magw170818-uigur02.jpg

カシュガルの町を威圧するかのように止まる「特警」の装甲車。ここ数年急速にこのタイプの車両が新疆に大量投入され、不審者摘発などに使われている SHUICHI OKAMOTO FOR NEWSWEEK JAPAN

エジプトからの強制帰国に先立ち、中国政府は15年夏にもタイから100人を超えるウイグル人を強制送還させている。タイの軍事政権も中国から多額の援助を得ていた。当時、タイには亡命を希望する大勢のウイグル人密航者たちがおり、彼らの多くは中国発給のパスポートを所持していなかった。自国民であるかの判断がつかないため、中国政府は強制帰国の執行に手間取ったとされる。

そのため、15年には一時的に中国政府のウイグル人へのパスポート発給が緩くなった。それまでならウイグル人は、多くの賄賂を公安当局者に支払い、役人との人間関係を築かなくてはパスポートを手に入れることはできなかった。

ところが政府の思惑とは裏腹に、ウイグル人はパスポートを手に入れると国外に逃れて帰国せず、外国で新疆の現状を告発するようになった。武装組織に身を置き、中国政府とのゲリラ戦を考えるグループの存在も顕著になっている。

中国政府は16年秋から再度、ウイグル人にパスポートを簡単に発給しない方針に戻した上、国外脱出者に帰国を促す通知を出した。

国外に「厄介者」を出しても新疆問題を世界的に認知させる結果となり、さらには軍事知識を持ったウイグル人が脅威となって中国に帰ってくる――。それゆえ中国政府は、新疆の地で漢人に同化するか、家と土地を明け渡して中国のどこかで底辺労働者になるかの二択をウイグル人に突き付けたのである。

【参考記事】ウイグル人なら射殺も辞さない中国に噛み付くトルコ

共産党の「目の上のこぶ」

ウイグル人のワタン(故郷)はいま悲惨な状況に陥っている。

新疆ウイグル自治区カシュガル地区カルグリック(葉城)中心部にあるウイグル人居住区では、美しかった青壁の街並みが人為的破壊によって瓦礫と化している。17年夏に南新疆を旅した日本の若者が、破壊されたこの街の風景を撮影した。

カルグリックはシルクロードの「西域南道」が通る交通の要所で、ホタン(和田)からカシュガルまでの中間地点にあり、チベットと新疆を結ぶ新藏公路の出発点でもある。過去には住民はウイグル人が9割を占め、全国有数の貧困地域だった。

日本人青年は語る。

「街のバスターミナルは閉鎖され、移動手段は列車しかなかったのに、この駅で下車したのはわずか5人ほどだった。駅を降りてすぐ警察署まで連行され、『何をしに来たのか』と職務質問が始まり、パスポートのコピーを取られ、1時間以上拘束された上に『一刻も早くこの街を出るように』と言われた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中