上海協力機構という安全保障同盟に注目すべき理由
中国の習近平国家主席とカザフスタンのナザルバエフ大統領 MUKHTAR KHOLDORBEKOV-REUTERS
<一帯一路やアジアインフラ投資銀行と違い、ニュースになることも少ない上海協力機構(SCO)。インドとパキスタン、さらにはイラン正式加盟の見通しもあるが、その急拡大は何を意味するのか>
上海協力機構(SCO)と聞いて、すぐに何のことか分かる人は少ないのではないだろうか。何かと話題になる「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行(AIIB)と違って、SCOはニュースになることも少ない。だが、今後はもう少し注目したほうがよさそうだ。
SCOの歴史は意外に古く、そのルーツは90年代半ばにさかのぼる。中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの首脳が上海に集まったのは96年のこと。ソ連崩壊によって、よくも悪くも「親分」を失った中央アジア諸国のため、関係国が安全保障の枠組みを話し合うことにしたのだ。
SCOは01年、この5カ国にウズベキスタンを加えた6カ国で正式発足した。その最大の目的は、国際テロや宗教的過激主義といった「外敵」だけでなく、当時勢いづいていた各国内の分離独立運動への対応でも加盟国が協力することだった。
やがてアジアの周辺諸国も、SCOへの参加を希望するようになった。SCO加盟国から締め出された「不穏分子」が、周辺諸国に活動拠点を移すことが懸念されたためだ。
実際、分離独立主義者や過激派は、周辺諸国からSCO加盟国に向けて攻撃するだけでなく、これら周辺国の中でも破壊活動を始めた。こうしてアフガニスタン、モンゴルなどがオブザーバーとしてSCOに参加するようになった。
注目すべきは、インドとパキスタン、そしてイランも05年にオブザーバー参加を認められたことだろう。いずれも戦略地政学的に重要な位置にある上に、正常な統治を危うくしかねない国内外の脅威にさらされていた。これらの国にとってSCO参加は保険のようなものだった。
そして6月、カザフスタンの首都アスタナで開かれたSCO首脳会議で、インドとパキスタンが正式加盟国に昇格した。これによりSCOは域内人口が30億人を超え(世界人口の40%以上)、合計GDPは世界の約20%を占めるようになった。
これは地政学的に重要な転機になるかもしれない。政治的・軍事的に激しく対立してきたインドとパキスタンが、SCOという枠組みの中で手を組んだのだ。もちろんそれが2国間関係にどんな影響を与えるかは、もう少し時間がたってみないと分からないが。
【参考記事】インドのしたたかさを知らず、印中対決に期待し過ぎる欧米
中東の安全保障にも影響
インドが正式加盟したことで、SCOは安全保障だけでなく、経済、投資、貿易もカバーするようになるとの見方があるが、それは違う。そのことは一帯一路構想を見れば分かる。