最新記事

南米

崩壊ベネズエラに迫る内戦の危機

2017年8月8日(火)17時50分
アイザック・チョティナー(スレート誌記者)

首都カラカスをはじめ、国内各地で相次ぐ反政府デモでは治安部隊との衝突で多数の死者や負傷者が(6月19日) Christian Veron-REUTERS

<制憲議会選挙の強行で今や内戦勃発の恐れも――。チャベスの後継者マドゥロが広げた混乱の原因と解決策は?>

国内外からの反対と非難を押し切って、ベネズエラで7月30日に新しい憲法を制定する制憲議会の選挙が行われた。現行憲法で定められた国民投票の実施なしに強行された選挙の結果、ニコラス・マドゥロ大統領率いる与党・統一社会党が全545議席を獲得。マドゥロの権力掌握が進み、野党議員が逮捕される事例が相次いでいる。

選挙の実施を受けて、米政府はマドゥロに経済制裁を科すことを発表した。一方でベネズエラ検察当局は選挙の不正疑惑を理由に、制憲議会の招集差し止め命令を裁判所に請求している。

13年に死去したウゴ・チャベス前大統領の後継者マドゥロの下で、世界最大の原油埋蔵量を誇るベネズエラでは深刻な食糧・医薬品不足が進行。混乱と暴力が広がっている。

危機はなぜ起きたか。元祖ポピュリズム政治家と呼ばれるチャベスとマドゥロの違いは何か。アメリカは何をすべきか。産油国の問題に詳しいスタンフォード大学のテリー・リン・カール教授(政治学・ラテンアメリカ研究)に、スレート誌記者アイザック・チョティナーが聞いた。

***


――ベネズエラで起きていることをどう定義するか。

驚くべき点は、民主主義と独裁政治の両方を経験してきた豊かな近代国家が今や崩壊しつつあるということだ。ベネズエラは一触即発の状況で、最悪の場合は内戦勃発も覚悟すべきだ。

内戦になれば多くの難民が生まれ、政情不安が飛び火して中米やカリブ諸国で犯罪発生率がさらに上昇するかもしれない。ベネズエラ危機はほとんど注目されていないが、非常に重大な意味を持っている。

【参考記事】まるでソ連末期の経済破綻に向かうベネズエラ

――危機の主な要因は何か。チャベス時代に遠因があるのか、それともマドゥロの政策か。

根本的原因は(チャベス以前の)2大政党制と民主主義の破綻にあると思う。だが単純な答えを言うなら、原油価格の急落、原油収入への過剰依存、チャベスとマドゥロ両政権の浪費だ。加えて、行政に抑制と均衡の仕組みが存在しない。極めて強い権限を持つ大統領が非常事態宣言を連発して反体制派を抑え込み、汚職がはびこっている。

厄介なのは、こうした問題点が全て、民主主義時代のベネズエラにも存在していたことだ。

チャベスの台頭を招いた2大政党制の崩壊はなぜ起きたか。私に言わせれば、貧困層のために何もしなかったからだ。市民の不満がチャベス支持につながったが、そのチャベスも原油収入に過度に依存した。

ベネズエラでは輸出収入の96%を石油が占める。潤沢な原油収入で全てを賄えるという神話がこの国を支配している。民主主義時代もチャベス時代も、そして今も。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中