次はドイツを襲うフェイクニュース
厳しさ断トツの規制法
「もはや世論は25年前のようには形成されない」。昨年11月にメルケルはそう嘆いた。「今はフェイクサイトがあり、その情報を際限なく拡散するアルゴリズムがある。そういう悪質なソフトに対処する方法を、私たちも学ばなくては」
ドイツの対処法は他国に例を見ないほどアグレッシブだ。今年春、ドイツではソーシャルメディア規制法案が提出された。ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアが、意図的なフェイクニュースや違法なヘイトスピーチの投稿を放置して削除しない場合は最高5000万ユーロ(約61億円)の罰金を科すというもの。法案はメルケル内閣の承認を得ており、今夏にも成立する公算が大きい。
フェイスブックは法案に反対を表明し、「ドイツにおいて何が違法行為かという判断を、裁判所ではなく民間企業に強いるものだ」と声明で主張した。それでも同社は今年末までに、同国内のコンテンツ監視チームを700人に増員し、第三者機関に委託して偽ニュースの削減に努めると約束した。
ドイツ国内の偽ニュースの多くは、政治的な偏見に基づいている。そして自分の意見やイデオロギーが正しいことを確認したいという一般大衆の願望に付け込む内容だ。
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15年以降だけで約200万人も増えた難民問題に関するものも多い。多くの国民は難民への門戸開放政策を支持しているが、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の指導者たちは、難民を嫌う人々の感情を最大限に利用している。
難民に関する偽ニュースを暴く同国のウェブサイト「ホークスマップ」は、昨年だけで少なくとも250本の偽ニュースを発見したとしている。その最も一般的なテーマは強盗やレイプなど。ほかにも難民が白鳥を食べたとか、墓を荒らした、女性に性的嫌がらせをしたなどの根拠なき主張が流されていた。
移民問題が選挙に及ぼす影響を調査している団体マイグレーション・ボーターのミリアム・アツェドとクリスティーナ・リーによれば、15年の大みそかにケルンで実際に起きた性的暴行事件が現在の偽ニュースに「不穏なパターン」をもたらしている。女性に対する性的虐待をでっち上げるという手法だ。
ケルン事件の報道が出た少し後の昨年1月には、首都ベルリン在住でロシア系の少女(13)が、アラブ系の難民たちに拉致されレイプされたと主張した。
ドイツ国内のロシア語テレビ局は、この少女の主張の一部を番組で取り上げ、「ベルリン警察が少女の訴えを無視している」という内容の放送をした。するとベルリン市街では大きな抗議デモが起こった。