「神の党」を名乗るヒズボラの明と暗
ヒズボラはレバノン南部の地下トンネル網も補強しており、その一部はイスラエル領内まで延びているとの観測もある。
「弾道ミサイルはイスラエルに対する秘密兵器だったが、シリアでは実戦で使用した。われわれには1時間に4000発のミサイルを発射する能力がある。イスラエルはそれを目の当たりにした」とダヒエの司令官は言う。「三輪バギーやバイク、無人攻撃機でイスラエル領に侵入し、石油施設を破壊することもできる。そして、こちらには対空ミサイルもある」
戦いの継承は文化の一部
現実はそう甘くない、たとえヒズボラが全兵力をレバノン南部に集結させてもイスラエルの攻勢には耐えられない、とみる専門家もいる。06年の戦争で危機感を抱いたイスラエルが軍事力を強化しているからだ。
「ヒズボラの手口は十分過ぎるほど分かっている」と、イスラエル軍の元諜報部員ジャック・ネリアは言う。「イスラエルが最初にすべきことはヒズボラのミサイルの無力化だ。それに成功すれば、イスラエルはレバノン領から打ち込まれるロケット弾の被害を最小限に食い止められる。われわれは本気だ。敵に容赦はしない。ヒズボラは私たちを甘くみないほうがいい」
両陣営が互いに与える損害の大きさを考えると、現状維持、つまり相互抑止の状態が続く可能性はある。この10年間も、戦争が避けられないようにみえた状況が何度かあった。
一昨年の1月にはイスラエルが、シリアにいるヒズボラの隊列を空爆した。ヒズボラは国境地帯のイスラエル軍に報復攻撃をかけたが、戦闘はそれ以上に拡大しなかった。イスラエルはシリア領内にあるヒズボラの兵器庫を繰り返し攻撃しているが、それでも戦争は起きていない。
しかし、ここへきて双方の軍事行動が活発化している。イスラエルは3月にレバノンとの国境付近にレバノン南部の村落を模した施設を建設し、ヒズボラの支配地域に侵入して戦う一連の訓練を実施している。
ヒズボラも負けてはいない。イスラエル軍の動きを注視し、情報を探り、戦闘員をレバノン南部に移動させて侵攻に備えている。「今はシリア政府軍が状況を掌握しているから」とダヒエの司令官は語る。「こちらはレバノン南部に集中できる」
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イスラエルと国境を接するレバノン南部の緊迫した状況は、今に始まったことではない。しかしヒズボラが臨戦態勢を整えていることと、アメリカがシリアへの関与を強めていることから、地域の緊張は一段と高まっている。何といってもレバノン南部はヒズボラの牙城であり、青々とした谷や丘陵の陰に多数のミサイルを隠している。戦争で最も被害を被るのは地域の住民だが、彼らはそうした暮らしに慣れてもいる。
「イスラエル側は準備しているし、こちらも準備は万端だ」。レバノン南部にいるヒズボラの幹部は言った。「子供たちの世代に戦い方を教えること。それはわれわれの文化の一部だ」
秋が来る前に戦争になる。この幹部はそう予測した。彼が正しければ、シリアにいるラビエのような兵士はレバノン南部に呼び戻されるだろう。「どこであれ、イスラエルが約束を破れば」とラビエは言った。「われわれが立ち向かう」
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[2017年8月 1日号掲載]