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北朝鮮、カナダ人は解放してもアメリカ人は議論の余地なし

2017年8月15日(火)21時31分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


解放されたカナダ人牧師「真冬に凍土を堀らされ凍傷に」


カナダの教会に戻り歓迎を受けるイム牧師 ©TVCHOSUN 뉴스 / YouTube

一方、北朝鮮が今月9日に病気を理由に「人道的見地」から31か月ぶりに釈放した韓国系カナダ人牧師イム・ヒョンスは、12日(現地時間)帰国。翌13日オンタリオ州ミシサガで教会の日曜礼拝に姿を現した。

韓国メディアTV朝鮮などが伝えるところによると、信者たちに歓迎を受けたイム牧師は「北朝鮮での拘留中は、日曜を除き毎日8時間働かされた。真夏はうだるような暑さのなか屋外で、真冬には石炭貯蔵施設で凍りついた石炭を砕いたり、凍った土に植樹用の穴を掘る作業をさせられた。上半身は汗びっしょりになりながらも、手足は凍傷にかかった」と、厳しい拘留生活の一端を明かした。あまりの苛酷さに拘留されて1年後に身体を壊して2カ月入院したこともあり、その後も健康が悪化し病院に行ったという。拘留直後は90キロあった体重が67キロまで減ったという。

イム牧師は1990年にオンタリオ州ミシサガの大いなる光の教会に着任。1997年から北朝鮮に渡航しはじめ、北朝鮮国内のそば工場、ラーメン工場、白頭山ブルーベリー農場などへ経済支援活動を行い、2013年にはトロント地域の韓国人教会を中心に24万ドルの募金を集め、北朝鮮孤児のために冬服を送る運動を行うなど"北朝鮮宣教の父"と呼ばれてきた人物だ。

彼は2015年1月、北朝鮮の貧困者層の支援のため北朝鮮・羅先市を訪問していたが、翌日平壌に入ったところで北朝鮮当局によって逮捕。検察から国家転覆容疑で死刑を求刑されたが、裁判で無期労働教化刑を言い渡された。「その瞬間から"孤独との戦い"があった」と2年半にわたる北朝鮮での拘留生活を表現した。「拘留されたその日から釈放される時まで一人で2,757食を孤独に食べ、いつどのようにこの逆境が終わるか分からなかった」と明らかにした。

そんな彼が孤独を耐え抜くことができたのは、他ならぬ信仰があったからだ。拘留されて1年経ってようやく聖書を受け取ると、英語とハングルで書かれた全ページを5回も読んで700の聖句を暗唱した。
「仕事をしている間も絶えずお祈りをした。あらゆる困難な瞬間があったが、神が勝てる力を与えてくれた。落胆と怒りの瞬間があったが、これはすぐに勇気と歓喜、感謝に変わった」と話した。

そんな彼は今回の劇的な解放について「まだ夢のようだ。みな神の恩寵だ」と強調した。無理もない、彼は自由になる15分前まで、自分が解放されるということも、カナダ政府が平壌に特使団を送ったこともまったく知らされていなかったのだ。イム牧師はトルドー首相と北朝鮮に派遣された特使のダニエル・コウ国家安保補佐官などカナダ政府関係者と北朝鮮の大使館を通じて支援してくれたスウェーデン政府、教会関係者をはじめ、自分の解放を支援してくれたすべての人に感謝を示した。

礼拝終了後、記者団に囲まれたイム牧師は「私が韓国国籍のままだったら多分死んでいたはずだが、カナダ国籍だったので、北朝鮮は殺すことができなかったのだろう」と語り、最後に記者から「また北朝鮮に行く気があるのか?」という質問には次のように応えた。
「北朝鮮が私を招待してくれるかどうか、よく分からない。祈るだけだ」

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