最新記事

英中関係

英ケンブリッジ大学がチャイナ・マネーに負けた!----世界の未来像への警鐘

2017年8月21日(月)17時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国現代史研究では世界最高権威の英ケンブリッジ大学 poohz-iStock.

イギリスの、あの名門大学がチャイナ・マネーに負けた。習近平政権の要請に応じて、天安門事件関連情報を遮断。中国が世界を制覇した時の悪夢を見せつけてくれた。中国の経済政策になびく日本の未来像でもある。

ケンブリッジ大学が中国の言論弾圧に同調!

イギリスの最高権威であるCambridge University Press(ケンブリッジ大学プレス)は18日、大学のウェブサイトに掲載してきた天安門事件などに関する論文300点ほどについて、中国からのアクセスをブロックすることを明らかにした。イギリスのThe Guardian(ガーディアン)がCambridge University Press censorship 'exposes Xi Jinping's authoritarian shift'という形で報じた。タイトルを直訳すれば、「ケンブリッジ大学プレスの検閲が習近平の独裁的な新たな動きを明らかにした」あるいは(もっと直訳すれば)「ケンブリッジ大学プレスの検閲は、習近平の権威主義的なシフトを公開している」ということになろうか。

要は、ケンブリッジ大学プレスは中国当局からの要求に従って、中国にとって好ましくない敏感な内容の論文が中国国内で広まることを警戒する中国の意向に沿って行動したということである。

ケンブリッジ大学出版局の中国問題、特に中国歴史研究においては世界の最高権威を保ってきており、筆者自身、『毛沢東――日本軍と共謀した男』の英語訳をこの出版局で出版すべく、日夜努力してきた。翻訳は昨年末に終わっており、後は出版を待つだけとなっていたのだが、それが途中から、何だか動きが鈍くなってきた。

そのためイギリスがEUから離脱し、中国依存度を高めるか否かを、神経質に考察している最中でもあった。

変だ、変だと思いながら情勢を見守っていたところ、ガーディアンが遂に現状を暴露してしまったという形だ。報道によれば、ケンブリッジ大学プレスのthe China Quarterly(チャイナ・クォリティ)という学術雑誌に載っている論文300ほどを、中国からは見ることができないように遮断したとのこと。内容としては天安門事件を始めとして、チベットなどの少数民族問題や台湾問題などがある。

中国ではGreat Fire Wall(万里の防火壁=ファイヤーウォール)で海外の(中国政府にとっての)有害情報を遮断する国家レベルのフィルターがあるが、このフィルターに穴をあけたり壁を越えたりするソフトがあり、そのソフトを使えばアクセスできるのである。最近では、このソフトが使えないようにする仕掛けも国家レベルで行なっているが、完璧ではない。そこで、ケンブリッジ大学側に、中国からのアクセスを遮断するように要求したわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アクティビスト、世界で動きが活発化 第1四半期は米

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中