スタバvsイスラム団体 インドネシアでボイコット騒動
今のところスタバ・ボイコットの呼びかけ、動きはインドネシアとマレーシアに留まっているが、こうしたイスラム教団体の動向はインターネットで瞬時に世界に伝わることから他のイスラム教国、イスラム教団体も同調する可能性も捨てきれない。
もっともジャカルタ市内に多数あるスタバは報道の後も相変わらず多くのインドネシア人が利用しており、その人気は衰えておらず直接営業に影響が出ている様子はみられない。
利用者の1人は「ニュースは知っているが、おいしいコーヒーをボイコットするほどのことではない」と話す。
マレーシアでは法律で禁止
スタバ・インドネシアを運営するMAPの子会社「サリ・コーヒー」ではムハマディアの営業許可取り消し要求とボイコット呼びかけに対し「スタバは過去15年間、インドネシアでこの国や人々の文化、信条を尊重して営業を行ってきた。それは我々の誇りであり、これからもその姿勢はなんら変わることはない」との声明を発表した。
同性婚、同性愛が法律で禁止されているイスラム教国のマレーシアとは異なり、インドネシアは、イスラム教を国教とせず、キリスト教、仏教、ヒンズー教など多宗教を認めることで「多様性の中の統一」という建国の国是を守り続けてきた。
しかしその多様性を認める寛容性が最近は揺らいでいる。4月19日投開票が行われたジャカルタ特別州知事選で敗北したバスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)知事(その後辞職)の大きな敗因と指摘されているのが、昨年の選挙運動中の「イスラム教を冒涜した」とされる発言。この発言にイスラム急進派が激しい個人攻撃、宗教差別という誰もが異論を唱えづらい信条攻撃を執拗に行った結果、アホック氏は多くの支持を失ったといわれている。アホック氏はキリスト教徒で中国系インドネシア人という少数派だったのだ。
インドネシアはジョコ・ウィドド大統領が先頭に立って「多様な価値を認める寛容性」を国民に説いているが、実際は世界第4位の人口2億5500万人の88%を占める圧倒的多数のイスラム教徒の信仰、意向、主張が「非寛容性、多様な価値の否定」をはびこらせているとも指摘されている。
今回のスタバ騒動も、政府はムハマディアの「スタバ営業許可取り消し要求」には応じない方針とされるが、ネット情報や口コミが社会に与える影響の大きさを考えると、今後スタバに対してボイコットあるいは利用者への妨害や営業妨害行為が起きることも完全に否定できないのが現在のインドネシア社会。こうした雰囲気、風潮をどうコントロールし、沈静化していくのか、インドネシアの「多様性と寛容」をスタバ騒動は改めて問いかけているといえる。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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