最新記事

観光

外国人が心底失望する「日本のホテル事情」

2017年7月31日(月)12時00分
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長)※東洋経済オンラインより転載

Five Star Allianceという有名な「5つ星ホテル」の情報サイトがあります。そのデータによると、世界139カ国に3236軒の「5つ星ホテル」があります。では日本はどうかというと、日本国内でこのサイトに登録されている「5つ星ホテル」はわずか28軒しかありません。これは、ベトナムの26軒を少し上回る程度です。

「ひとつの国にある超高級ホテルの数なんてそんなものじゃないの」と思うかもしれませんが、実は外国人観光客が年間2900万人訪れているタイには110軒の「5つ星ホテル」があります。バリ島だけでも42軒です。年間3200万人訪れているメキシコにも93軒の5つ星ホテルがあるのです。

タイはすばらしい実績を上げています。2900万人の観光客しか来ておらず、物価水準も先進国の半分以下であるにもかかわらず、タイの観光収入をドル換算すると、世界第6位の観光収入を稼いでいる計算になります。

タイが観光でこれほど稼げる理由のひとつに、110軒の5つ星ホテルの存在があります。タイの実績は「特殊な娯楽」を求める人に支えられているという批判をたまに聞きますが、それは事実無根のただの偏見にすぎません。

年間2400万人の観光客が訪れ、G7の一角をなす「経済大国」であるはずの日本に、タイの4分の1、メキシコの3割しか「5つ星ホテル」が存在しない。これは明らかに、日本が国際観光ビジネスを重視してこなかった結果だと思います。

実際、2年前にこんなことがありました。あるアメリカの大富豪の事務所から、紅葉の時期に京都に泊まりたいが、安いホテルしか見つからず、「予算の最低基準」を下回る。いいホテルを探してくれないか、という連絡があったのです。

私も手を尽くしたのですが、結局アパホテルしか空いておらず、その大富豪の訪日自体が白紙になりました。

もちろん、アパホテルが悪いと言いたいわけではありません。しかし世界のお金持ちには「予算の最低基準」があり、それを下回ると訪日すらあきらめる人が多いのです。これは究極の「もったいない」ではないでしょうか。

今まで日本は観光産業に力を入れてきませんでしたので、ある意味、仕方ないともいえますが、今後「観光大国」になることを考えると、高級ホテルを整備して単価を上げることが必要なのです。

そんなものがなくても、日本にはすばらしい文化や「おもてなし」の心があるので、観光客の満足度には影響がないと主張される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、残念ながらそれは精神論をふりかざしているだけにすぎず、「観光大国」を目指すうえでの合理的な解決策とはいえません。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中