極上ホラー『ウィッチ』は「アメリカの原罪」を問う
長女のトマシンに疑いが向けられる ©2015 WITCH MOVIE,LLC.ALL RIGHT RESERVED.
<監督ロバート・エガースの長編デビュー作『ウィッチ』は、17世紀のアメリカを舞台に「魔女」と家族の崩壊を描き出すダークな傑作>
15年のサンダンス映画祭で監督賞を受賞したロバート・エガースの『ウィッチ』は、残酷な優美さと信念に裏打ちされた稀有なホラー映画だ。エガースはこの妥協を排した長編デビュー作で「アメリカの原罪」を生み出した原初的熱狂をよみがえらせ、思わず身が引き締まる新鮮な体験を観客に届ける。
1630年の寒い冬の日、ある敬虔なピューリタン(清教徒)の家族がニューイングランドの入植地から追放される。いさかいの詳細な事情は明かされないが、宗教をめぐる対立があったようだ。
「私は真の神の福音を説いただけだ。偽のキリスト教徒たちの審判を受けるわけにはいかない」。追放された一家の家長ウィリアム(ラルフ・アイネソン)は、村人たちにそう告げる。観客に息をつく暇も与えない映画の始まりから90秒後、ウィリアムは妻キャサリン(ケイト・ディッキー)と5人の子供を連れて村を離れ、荒野に向かう。
後から考えれば、ウィリアムはあの森の外れに家族を移住させるべきではなかった。その後すぐに事件が一家を襲う。
10代の長女トマシン(アニヤ・テイラージョイ)が生まれたばかりの弟を「いないいないばあ」であやしていると、隠した顔から両手を離した瞬間、赤ん坊は姿を消す。トマシンと両親は狼の仕業に違いないと自分たちに言い聞かせるが......。
エガースは不運な赤ん坊の運命について一切の謎を残さない。その後、顔に深いしわの刻まれた老婆が、赤ん坊の体をすりつぶしてどろどろの「血のローション」に変え、しなびた体全体に塗りたくる姿が映る。まるでゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』を反対の角度から映したような場面だ。
【参考記事】生まれ変わった異端のダンサー、ポルーニンの「苦悶する肉体」
少女の体は「邪悪の源泉」
美術監督出身のエガースは細部の細部にまで徹底的にこだわり、限られた予算で完璧な一貫性を持つ1つの世界をつくり上げた。草ぶきの屋根からウィリアム一家が文明世界の村を出ていくシーンに映り込むアメリカ先住民の姿まで、全てが17世紀の一断面をリアルに感じさせる効果を発揮している。