最新記事

日本政治

危機不感症に陥った日本を世界の激震が襲う日

2017年7月11日(火)12時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

世界情勢を引っかき回すトランプの行く先は? Carlos Barria-REUTERS

<中ロ両国の膨張と中東の不安定化に無力なトランプ政権。ミサイル危機にさえ能天気な日本につける薬はない>

今の世界では危機が起き過ぎて、何でもすぐ忘れられる。北朝鮮のミサイル危機でも、「何も起こらなかった」と日本はまた能天気だ。しかし今や国際政治の激震がいつ日本を巻き込むか分からない時代となった。まずは変動する「プレート」を概観することで、日本の「耐震性」を見直してみよう。

隣国・韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は北朝鮮ミサイルの盾になる米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)追加配備を先送りし、日本とは慰安婦問題を蒸し返す構えだ。そうやって対米・対日関係を棚上げすれば、韓国は北朝鮮や中国に対して弱い立場に追い込まれるだろう。

北朝鮮の核ミサイルが米本土に届く性能を獲得しようとしているのに、アメリカは日韓両国が北朝鮮から報復攻撃を食らうのを考慮して武力行使に踏み切れない。そこでアメリカは北朝鮮問題を中国に委ねて、朝鮮半島から実質的に押し出されつつある。南シナ海でもトランプ政権は中国の懐柔を受け、米軍は中国が人工島の守りを着々と固めるのに手出しできない。

トランプ米政権はオバマ前政権からの引き継ぎがなっておらず、側近や議会共和党内部の足並みが乱れ、内外共に一貫した政策を打ち出せない。トランプ米大統領は対ロ関係の改善を目指していたが、議会はロシアの大統領選介入疑惑で新たな経済制裁法案を審議中。既に上院は通過し、下院での審議待ちだ。

既存の対ロ制裁を撤廃する大統領権限を封じ、制裁をエネルギーや金融だけではなく、製鉄や鉄道などの輸送分野にも広げ得る規定になっている。下院を通過してもトランプが法案の大統領署名を拒否する可能性があるが、いったん法律になれば制裁解除はますます遠のく。反発するロシアはヨーロッパや中東で反米的策動や北朝鮮支援を強化するだろう。そうなれば、日ロ関係の改善は進めにくくなる。

【参考記事】都政と国政の混同で、東京は選択機会を逸した

勢いを失った長期政権

中東で米ロが協力してきたテロ組織ISIS(自称イスラム国)掃討が最終局面に近づいた今、アメリカはシリア作戦の大義名分を失いつつある。米軍はシリア南部に基地を確保しようとしているが、シリア政府軍はロシアと共に妨害に動いており、米ロの軍事衝突もあり得る。7月上旬に初の米ロ首脳会談が行われても、前向きな兆しは見えそうにない。

トランプは5月下旬にサウジアラビアを訪問し、オバマ前政権の米イラン融和によるしこりを解消。サウジアラビアは気を強くしたのだろう。6月初旬にカタールと突然外交関係を断絶する挙に出た。カタールには中東最大の米空軍基地が置かれるなど中東における米軍の前線基地だ。だがトランプはそれを知らなかったのか、当初は断交を支持し、カタールの「テロ支援」を一方的に非難した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ次期大統領、予算局長にボート氏 プロジェク

ワールド

トランプ氏、労働長官にチャベスデレマー下院議員を指

ビジネス

アングル:データセンター対応で化石燃料使用急増の恐

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中