最新記事

ヘルスケア

迷走するオバマケア代替法案のあまりに不都合な真実

2017年7月3日(月)16時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

オバマケア代替法案の採決延期を発表する米共和上院トップのミッチ・マコネル院内総務(6月27日) Aaron P. Bernstein-REUTERS

<規制が多く保険料が高くなりがちなオバマケアに代えて、市場原理を取り入れた代替法案を通したい米共和党だが、代替のデメリットばかりが目立って法案への国民の支持率は20%を割り込んだ>

オバマケア代替法案の審議が難航している。6月27日には、月内に予定されていた上院での共和党案の採決が、7月10日以降に延期された。決定的な問題は、国民にとっては改悪と感じられる内容となってしまった点にある。

オバマケア代替は共和党の宿願

米国で論争となっているオバマケアの代替法案は、ドナルド・トランプ大統領の重要な公約である以前に、議会における共和党の宿願だった。

オバマケアは、2010年にバラク・オバマ大統領のもとで成立した医療制度改革を指す。補助金などによって個人による保険の購入を支援すると同時に、メディケイド(低所得者医療保険制度)を拡充するなどの措置を講じ、無保険者を減らすことを目指した改革である。

米国は国民皆保険制度を採用していない。公的保険は高齢者と低所得者のみにしか用意されておらず、現役世代は勤務先を通じて民間保険に加入する場合が多い。しかし、こうした手段を利用できない場合には、個人で保険料が年間数十万円もする高価な保険を購入せざるを得ず、医療保険に加入できない「無保険者」が存在してきた。米議会予算局(CBO)の試算によると、その数は全米で2600万人に上るという。

かねてから共和党は、オバマケアを目の敵にしてきた。伝統的に共和党は「小さな政府」を志向してきたが、オバマケアによって政府の役割は格段に大きくなった。医療保険への政府の関与を減らし、市場の競争を促進すべきだというのが共和党の主張だった。実際に共和党は、オバマ前政権の時代から、議会でオバマケアの廃止を何度も議論してきた。

得られない国民の支持

トランプ政権の誕生によって、共和党は宿願をかなえる絶好のチャンスを手に入れた。
成立から7年が経過したオバマケアには、対処すべきいくつかの問題点が浮上していた。力を入れてきた個人保険においては、保険料の高騰が伝えられる。地域によっては、採算が取れなくなった保険会社が撤退してしまい、個人による保険の購入が難しくなるところも出てきた。連邦政府の財政負担が増え続けている点も、大きな問題である。

ところが、いざ議会での審議が始まってみると、共和党による代替案は国民の支持を得られていない。各種の世論調査では、共和党の代替案を支持する割合は20%を割り込んでいる。国民にとっては、改悪と思えるような提案だからである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 買春疑惑で

ワールド

ウクライナ戦争「世界的な紛争」に、ロシア反撃の用意

ワールド

トランプ氏メディア企業、暗号資産決済サービス開発を

ワールド

レバノン東部で47人死亡、停戦交渉中もイスラエル軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中