稲田防衛大臣辞任、中国でトップニュース扱い----建軍90周年記念を前に
7月末は朝鮮戦争休戦記念日――軍事の季節
7月27日は朝鮮戦争(1950年6月25日~1953年7月27日)の休戦記念日。北朝鮮はこの日を戦勝記念日としている。北朝鮮は自国を、朝鮮戦争においてアメリカを中心とした連合国側に勝利したと位置づけているのだ。だから今年はこの日の前後に北朝鮮がミサイルを発射するだろうことが懸念されていた。
8月1日は、中国人民解放軍の建軍記念日。
つまり中国にとっても北朝鮮にとっても(北東アジア近辺は)、7月末から8月初めにかけては「軍事の季節」なのである。
こういった国際情勢を重視せずに、よりによって防衛省が最も緊張して鋭敏に動かなければならない可能性があるこのタイミングを選んで防衛大臣を辞任したことは、賢明な選択だったとは言えない。辞任するならもっと早くすべきで、防衛大臣として「この軍事の季節」の真っただ中を選んだこと自体、国際的視野からすれば、日本国の防衛を背負う責任感が問われる。日本の国益を最優先するという姿勢が、残念ながら欠落していたのではないだろうか。
案の定、28日から29日にかけての深夜、北朝鮮は又もやミサイルを発射した。
岸田外務大臣が防衛大臣を兼務したのは「両省庁間の情報交換」には好都合かもしれないが、「日本国の危機管理」という視点から言えば、必ずしも適切ではないだろう。掛け持ちのため、28日夜半から29日未明まで両省庁間を行き来し、激務が続いたようだ。現場の自衛隊へのしわ寄せは、如何ばかりかと察するにあまりある。
北朝鮮をここまで「のさばらせた」責任
北朝鮮に、ここまでミサイル技術を発展させる機会を与えてしまった国際社会の結果責任は、あまりに大きい。
相手が「ならず者国家だから」と言って非難したところで、それを食い止めることができなかったのは確かだ。
トランプ政権は「アメリカのここ20年間の対北朝鮮政策は間違っていた」と何度も宣言したが、今も間違っていないだろうか?
どんなに「最大限の厳しい言葉」で非難したところで、北朝鮮の耳には届かないことを自覚すべきだ。金正恩にとっては痛くも痒くもないだろう。そうこうしている内に、アメリカまで届くICBM(大陸間弾道ミサイル)は完成してしまう。
では、私たちに何ができ、何をしなければならないのか。
そのことに関しては(長くなるし、本稿のテーマではないので)、別途改めて論じる。詳細は拙著『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』の第三章「北朝鮮問題と中朝問題の真相」(p.103からp.156)に書いた。朝鮮戦争をリアルタイムで経験してきた者として、可能な限りの内部情報と課題を盛り込んだつもりだ。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社、7月20発売予定)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。