最新記事

中国

中国シェア自転車「悪名高きマナー問題」が消えた理由

2017年6月26日(月)11時45分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

マナー問題がボトルネックといわれるが

過熱する中国発シェアリングエコノミーだが、一方で課題も少なくない。その最たるものがマナー問題だろう。シェアサイクルに関しても中国内外のメディアはマナー問題がボトルネックになる可能性を指摘している。ざっくりとまとめれば次のようにまとめられるだろうか。

自転車を好き放題乗り捨てすれば、交通の邪魔になってしまう。自分の自転車じゃないと思って乱暴に扱えば、壊れた自転車が散乱するだけになってしまう。さらには自転車を川に投げ込む、サドル部分に画鋲を埋め込んでおくという誰も得をしないイタズラまで報じられている。多額の融資を得て次々と新しい自転車をばらまいている今はいいかもしれないが、しばらく経てば負の側面が鮮明に見えてくる。結局のところ一時のバブルであって、持続可能なサービスではないのではないか......。

素直な私は「なるほど、そういうもんかいな」と受け止めていたのだが、実際にいくつかの中国の都市を見てみると印象が変わった。

確かに乗り捨てられた自転車がたまっているところはあるし、壊れた自転車もある。だがあくまで許容範囲だ。気合いを入れて探せば報道されているような問題にも巡り合えたのかもしれないが、普通に利用している場合には特に困った点はない。

takaguchi170626-2.jpg

乱雑に停められていたり倒れていたりする自転車もあったが許容範囲ではないか 撮影:筆者

悪名高き中国人のマナー問題(というと中国の友人に怒られそうだが、中国人自身もネタにしていることなのでご容赦いただきたい)はどこへいってしまったのだろう!?

【参考記事】自転車シェアリング--放置か、法治か?

信用情報の大統一を目指す中国政府

この背景は2つの視点から理解する必要がある。第一にシステムの問題だ。

シェアリングエコノミーではマナーを守らせるための評価システムが導入されている。例えばシェアライドのUBERでは顧客がドライバーを、ドライバーが顧客を相互に評価する仕組みが導入されている。評価が高まると顧客は車を拾いやすくなり、ドライバーはより多くの客が配分される。利便性という「ニンジン」を吊すことによってマナーを変えようとしているのだ。

この評価システムは中国ではさらにアグレッシブな進化を遂げている。米国ではUBERが得た評価情報は原則として他社に提供されない。中国では政府の指導の下、シェアサイクル各社は協定を結び、マナーが悪い顧客に関する情報を共有している。あるシェアサイクル企業のサービスでマナー違反を行えば、他企業のサービスも利用できなくなるのだ。

そればかりか、中国政府はこうしたシェアリングエコノミーの信用情報に加えて、金融機関の信用情報、海外旅行のマナー違反ブラックリストなど、ありとあらゆるデータベースを連結。信用情報の大統一を目指している。

完成した暁には、シェアサイクルでいたずらをすると、住宅ローンの金利が上がったり、海外旅行に行けなくなったりするという寸法だ。SF小説のディストピアそのままの世界だが、現実には人々のマナーが向上して過ごしやすい社会が到来するという側面もあるのかもしれない。

逆にいうと、そうした先進的ディストピア・システムが備わっていない日本では、中国以上にマナーが問題化する可能性もある。実際、香港のシェアサイクル「gobee.bike」はトラブルに苦しんでいる。

同社は4月初頭にサービスを開始した、中国式の乗り捨てOKのシェアサイクルだ。ところがサービス開始直後から、自転車が盗まれる、川に捨てられる、交通の邪魔だとクレームが殺到などなど、トラブルが続出している。同社のレイチェル・コーエンCEO(最高経営責任者)はメディアの取材に答え、「香港は安全な都市だからこんなに問題が起きるとは思ってなかったんですが......」「香港に失望しました」とぼやいている。

日本でも同様の問題が引き起こされる可能性はありそうだ。

【参考記事】ママチャリが歩道を走る日本は「自転車先進国」になれるか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中