最新記事

イギリス

ブレグジット大惨事の回避策

2017年6月26日(月)09時45分
フィリップ・レグレイン(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス欧州研究所客員研究員)

EUの3つの優先分野

暗い見通しばかりではない。総選挙の結果を受け、保守党内のハードブレグジット派が勢いを失い、ソフトブレグジット派の影響力が高まる可能性がある。実際、メイは選挙後の内閣改造で、強固なEU支持派として知られるダミアン・グリーン前雇用・年金相を閣内ナンバー2の筆頭国務相に任命した。

そもそも保守党以外の議員のほとんどは、経済と雇用への打撃を最小限に抑えるソフトブレグジットを希望している。ただ、今回の選挙で議席を大きく増やした野党・労働党のジェレミー・コービン党首は強気になっており、ハードブレグジットを掲げてきたメイがさらに墓穴を掘るのを見守るつもりだ。

また、英議会がソフトブレグジットに向けて一致したとしても、それが実現する保証はない。イギリス以外の27のEU加盟国は、これまでになく強い立場にある。メイが3月に離脱通知を提出した1カ月後には、さっそくイギリス抜きの首脳会議を開き、EUとしての離脱交渉の基本方針を決めた。

それによると、EUが優先的に交渉する分野は、イギリスに住むEU市民の権利保護と、最大600億ユーロとされるイギリスの未払い分担金の請求、そして北アイルランド(イギリスの一部)とアイルランド(EU加盟国)の自由通行権の確保だ。

EUに誠意を示すために、イギリスはEU市民の権利保護を一方的に認める措置を取るべきだ。未払い金の清算については、離脱後に移行期間を設け、その間も分担金を支払うことで圧縮できるだろう。アイルランドの国境問題については、移行期間中は単一市場と関税同盟にとどまることで当面対処できる。

27加盟国は、この3つの優先交渉分野で「十分な進捗」があったとき初めて、貿易関係の交渉に着手するとしている。

【参考記事】メイ英首相が誰からも嫌われる理由

せめて関税同盟に残留を

イギリスにとっても、EUにとっても、経済的に最も望ましいのはイギリスが単一市場と関税同盟にとどまることだ。これなら貿易への影響はほとんどないし、既存のサプライチェーンも維持できる。

しかし、それには人の自由な移動の確保が欠かせない。だが、ブレグジットを支持した多くの人にとって、移民や出稼ぎ労働者の流入を制限することこそが最大の支持理由だ。それだけにこの問題は、メイにとって大きな頭痛の種になるだろう。

政治的には、ブレグジットによってイギリスが苦しい状況に置かれたほうがEUにとっては好ましい。EU離脱を考える他の加盟国への「見せしめ」になるからだ。また多くの加盟国が、ブレグジットによって世界で1、2を争うロンドンの金融センターの一部分でも誘致できるのではないかと期待している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中