岐路に立つカタールの「二股外交」
ところが近年、その戦略は迷走している。アラブの春が崩壊して、反体制運動はイスラム過激派に取って代わられたのに、カタールは他のスンニ派諸国が嫌悪し恐れているこうした過激な運動に資金提供し、メディアでの支援を続けたのだ。
また、サウジアラビアなどのスンニ派とイランのシーア派の対立が悪化するなか、カタールはイランに接近し続けた。スンニ派諸国から見れば、タミムはスンニ派諸国の現体制を打倒し、自分の影響力を拡大しようとしているように見えた。
一方、シーア派諸国(と組織)も、カタールが米軍に拠点を提供し続け、イエメンにおけるホーシー派討伐を支援し続けることに対して、不信の目を向けるようになった。
「カタールは中東の香港になろうとした」と、アラブ紙アル・ハヤトのワシントン支局長ジョイス・カラムは語る。「もうそれは不可能だ」
その流れを決定的にしたのが、トランプの登場だ。
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クーデターへの「期待」
バラク・オバマ前米大統領は、中東の宗派抗争に巻き込まれないよう、主要国全てに関係構築の窓を開いた。カタールとスンニ派諸国間の緊張の高まりについては、当事者同士で解決させるべく距離を置いた。
トランプのサウジアラビア訪問は、その危ういバランスを崩した。トランプの演説は、スンニ派諸国を勢いづかせ、イランとその「代理組織」に対して強硬な態度を取らせ、カタールとの断交に踏み切らせた。
カタールは一気に苦しい状況に置かれた。金持ちで巧みな外交力があるとはいえ、カタールは食料の40%をサウジアラビアからの輸入に頼っている(だから断交が発表された日、ドーハのスーパーマーケットには買いだめの行列ができた)。近隣諸国からの出稼ぎ労働者も、帰国を余儀なくされた。
サウジアラビアは、カタールに軍事政権の誕生を望んでいるようだ。ある新聞は、「(カタールでは)過去46年間にクーデターが5回あった。6回目も遠くない」と書き立てた。
カタールはこうした圧力に屈して、シリアで活動するシーア派過激派組織への支援を大幅に縮小せざるを得ないだろうと、軍事情報サイト「ジェーン360」の記事は予想している。