最新記事

疑惑 

マルタ疑惑 地中海に浮かぶ小国がヨーロッパの脱税天国に?

2017年6月2日(金)17時30分
モーゲンスタン陽子

Darrin Zammit Lupi-REUTERS

<地中海の美しい島マルタ島が、オンラインギャンブルのマネーロンダリングの巣窟になっているという内部告発がおこなわれた>

地中海、イタリアのシチリア島の南に浮かぶ人口43万人程度のマルタ共和国は、世界で最も小さい国の1つだ。英連邦とEUの一員でもある。「マルタ島」の名称の方が馴染み深いかもしれない。アメリカのミステリー作家ダシール・ハメットの小説で、ボギーことハンフリー・ボガートが主演した映画『マルタの鷹』(1941)の舞台として知られるほか、その美しい街並みとビーチで人気の観光地となっている。

だが、マルタにはもう一つの顔がある。それは、EUきってのタックス・ヘイブン(低課税地域)であるために外国企業を魅了し続け、とくにオンラインゲーミング産業においては世界的中心地であるということだ。その歳入は同国GDPの12%にのぼるという。

内部告発でずさんな管理が明るみに

オンラインゲーミング産業とはつまり、オンラインカジノ等でギャンブルを行うオンライン賭博のことだ。2015年には全世界で380億ドルの歳入がある。

合法的に運営するには、オンライン賭博が合法である国が発行するライセンスが必要で、マルタは2015年の時点で世界各国の企業に約500のライセンスを発行している。そのほとんどはヨーロッパの企業だ。マルタでライセンスが発行されると、マルタベースのサーバーを通してEU28か国での操業が可能となる。

ライセンス申請者の信憑性を調べ、また脱税やマネー・ロンダリング(資金洗浄)などの違法行為がないかを監視するのがマルタ・ゲーミング・オーソリティー(MGA)だが、このほど内部告発により、MGAが少なくとも2012年から14年のあいだ、サーバーのモニタリングを行わずに操業を許していたことが明るみに出た(5月26日、ロイター)。ただし、今のところは実際に違法行為があったかどうかの確認はとれていない。

MGAでは賭博サイトに使われるコンピュータサーバーにIDつきのステッカーをつける「シーリング」という方法でモニタリングをしている。IDはMGAに登録されたものと同じでなければならない。内部操作はできないが、MGAは各社がオンライン取引にどのハードウェアを使っているかを知ることができる。同社の元社員でITエキスパートであるブルガリア人のヴァレリー・アタナソフは、モニタリングの過程で10数社で不審な行為を発見し、そのたびに上司に報告したが、告発は却下されるばかりだった。

【参考記事】「パナマ文書」、「暴露の世紀」の到来

違反行為が確認された会社の一つに、スウェーデンの大手ベットソンがある。ドイツで人気のオンラインゲームサイトで、ページを見ると、ギャンブル好きで知られる元ドイツナショナルチームのサッカー選手であるマリオ・バスラーが広告塔として登場し、同サイトへの登録を誘いかけている。スポーツ賭博のほか、ライブ・カジノ、ポーカーなどもある。全世界で約1800万人が同サイトで日常的にポーカーに興じているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、重要鉱物の輸入依存巡る調査開始へ大統領

ワールド

ハーバード大は政治団体として課税を、トランプ氏が免

ビジネス

米J&Jトップが医薬品関税で供給網混乱と警告、国内

ワールド

中国、ロシア産LNG輸入を拡大へ 昨年は3.3%増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    そんなにむしって大丈夫? 昼寝中の猫から毛を「引…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中