ミャンマーで人権問題担当の女性記者襲撃 「報道の自由」にスー・チーの力及ばず
同新聞社は声明の中で東南アジア報道連盟(SEAPA)の「今回のような襲撃事件はミャンマーにおけるジャーナリストの立場が依然として弱く、危険であることを示した。特に女性記者そして地方の記者の立場はさらに厳しい」というコメントを掲載。DVBもHPで事件の詳細を伝えるとともにミャンマー女性ジャーナリスト協会報道官の「ミャンマーの女性記者、いや全ての女性の立場は弱く、地方に行けば行くほど状況は厳しい。地方では身の危険があるため移動手段、交通機関の確保が難しい」との指摘を取り上げている。
射殺されたスーチーの法律顧問
軍政に替わってスー・チー政権が誕生し、ミャンマーで民主化が実現したことは事実。だがスーチー政権は、国民の大多数を占める仏教徒と依然として政治に大きな影響力をもつ国軍という2大パワーの狭間で顔色を伺いながらの民主化に過ぎないのが現実である。
スー・チー政権誕生を契機にミャンマー各地で政府軍による弾圧、人権被害を受けていた少数民族は問題解決への大きな期待を抱いた。だが、少数派イスラム教徒である西部ラカイン州に多く居住するロヒンギャ族への冷遇、差別、軍による人権侵害は依然として続いており、スー・チーさんは東南アジア諸国連合(ASEAN)のみならず国際社会から厳しい批判を受けている。
今年1月29日には、スー・チーさん率いる政党「国民民主連盟(NLD)」の法律顧問で少数派イスラム教徒のコー・ニー氏が中心都市ヤンゴンの国際空港で射殺されるという事件も起きるなど、問題解決や憎悪表現に暴力や殺人という手法が用いられるなどいまだに軍政時代のダークゾーンが幾重にも残されている。
民主化とともに、軍政時代には官製報道一色だったミャンマーのメディアもかなり自由化された。「報道の自由度ランキング」で2017年のミャンマーは世界180カ国中131位にランク付けされ、2016年の143位から前進している。東南アジア10カ国中でもインドネシア(124位)フィリピン(127位)に次ぐ3番目の自由度と評価されている。
しかし実態はというと、「政権」「仏教徒」「国軍」に関わる汚職・腐敗、人権侵害、麻薬関係の報道は「いわゆるタブーで、あえて火中の栗を拾う記者もメディアもほとんどいない」(タイの記者)という。
そんな現状の中、果敢な取材活動を続けていたミャー記者の拉致、襲撃という衝撃的な事件を受けてミャンマーでは「スー・チー政権は女性ジャーナリストの安全確保にもっと努力するべきだ」(DVB放送局)との声が高まっている。かつては輝くミャンマーの希望の星であり、民主化運動のシンボル「戦う孔雀」にもなぞらえられたスー・チーさんの、国家指導者として、そして女性としての指導力が試されようとしている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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