最新記事

テロ対策

東南アジアのISIS対策 「無法地帯」の海上制圧が鍵

2017年6月16日(金)09時00分

6月14日、東南アジアのボルネオ島とフィリピン南部を隔てる海域では従来、武装勢力や海賊、麻薬密輸業者らが暗躍していた。だが、過激派組織「イスラム国」系勢力が今回、表舞台に登場したことで、新たな不安が生まれている。写真は12日、IS系勢力が占拠するフィリピンのミンダナオ島マラウィで、壁に書かれた「ISの拠点にようこそ」の文字(2017年 ロイター/Romeo Ranoco)

武装勢力や海賊、麻薬密輸業者、そして銃器密輸業者──。東南アジアのボルネオ島とフィリピン南部を隔てる海域では従来、こうしたグループが暗躍していた。だが、過激派組織「イスラム国(IS)」系勢力が今回、表舞台に登場したことで、新たな不安が生まれている。

ムスリム主体のインドネシアやマレーシア、またマイノリティーだが相当数のムスリムを抱えるフィリピンなどは、これまでもシリアやイラクなどIS支配地域の最前線から自国出身の戦闘員が帰国する可能性に対して強い懸念を抱いていた。

その「悪夢のシナリオ」は先月、現実となってしまった。ISに忠誠を誓う地元の武装勢力に加え、マレーシアや、インドネシア、アラブ諸国、チェチェン出身の戦闘員数十人がフィリピンのミンダナオ島に突如として出現し、マラウィ市を占拠したのだ。

国際的なイスラム聖戦主義勢力(ジハーディスト)がフィリピンに拠点を確立し、下部組織を使って東南アジア全域に対して攻撃を仕掛ける危険が生じたことで、域内の各国政府は、自国が直面する脆弱さを改めて思い知らされる局面に陥った。

「マラウィからインドネシアへの移動は簡単だし、インドネシア国内の潜伏組織が活性化することを十分に警戒しなければならない」とインドネシア軍のガトット・ヌルマンチョ司令官は警鐘を鳴らす。

同司令官によれば、インドネシア国内の34州のほぼすべてにIS系の潜伏組織が存在するという。

インドネシアは、フィリピン、マレーシア両国に対し、マラウィの占拠事件についての協議開催を呼びかけた。マラウィでは米特殊部隊の支援を受けたフィリピン軍が、ISに触発されたマウテ兄弟率いる武装組織から市を奪還すべく、3週間以上も戦闘を続けている。

インドネシアは世界で最もムスリム人口の多い国だが、これまでのところ、ISに触発された攻撃は比較的小規模にとどまっている。だが、その頻度は上昇してきたという。先月、ジャカルタのバス停留所で発生した自爆攻撃では3人の警察官が死亡した。

一方、マレーシアでは、厳格な治安維持法が発動され、武装勢力やIS同調者と見られる容疑者が多数拘束されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPECプラス、7月以降も増産継続へ 自主減産解除

ワールド

バチカンでトランプ氏と防空や制裁を協議、30日停戦

ワールド

豪総選挙は与党が勝利、反トランプ追い風 首相続投は

ビジネス

バークシャー第1四半期、現金保有は過去最高 山火事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 9
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中