アメリカはシリアを失い、クルド人を見捨てる--元駐シリア米大使
サウジアラビアやカタールなどの湾岸アラブ諸国やトルコの支援も受けた反政府勢力は、アサド政権に対し大規模な攻撃を開始した。アメリカはシリアには武力行使しない方針だったが、CIA(米中央情報局)も最後は、反政府武装勢力のうち厳選した世俗派への軍事訓練や武器の供与を決定した。
この方針転換が公になった2014年以降、アメリカは終始後手に回ることになった。ロシアとイランは、アメリカが反政府勢力に投じるよりはるかに大量の支援をアサドに行った。その結果、世俗派だったはずの反政府勢力の多くの戦闘員がISISや国際テロ組織アルカイダなどイスラム教スンニ派の最も過激思想に転向していった。
反政府勢力の中にジハーディストが台頭するにつれ、アメリカはISIS掃討を優先する政策に舵を切り、クルド人主体のSDFへの支援を開始した。シリア内戦が始まった当初、多くのクルド人は、反アサドの機運が高まったことを肯定的に受け止めた。イラク北部のクルド人自治区のように、シリア北部でクルド人自治区を作るチャンスと考えたからだ。
だがSDFの戦闘員たちは戦いが進むにつれ、敵はISISだけではなく、トルコの支援を受けた反政府武装組織もいると思い知った。国内にいる約1500万人のクルド人の独立を阻止したいトルコは、SDFを国家安全保障上の脅威とみなしているのだ。
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アメリカはクルド人を守らない
そもそもSDFは、シリア政府軍と反政府勢力の戦いの中では、ほぼ一貫して中立の立場だった。だがISISの支配地域が縮小の一途をたどり、アメリカとアサド政権の緊張関係が高まった今、SDFはシリア政府軍との戦いの前線に立っている。シリア政府軍とSDFが衝突した後の今週月曜、アメリカは初めてシリア政府軍機を撃墜した。SDF部隊の上空を飛行したのが理由だった。
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クルド人がアメリカと手を結んだのは重大な過ちだったと、フォードは言う。イラク侵攻後にイラクを見捨てたのと同様に、米軍はシリアからISISが一掃され次第、クルド人勢力への支援を打ち切るとみるからだ。
「アメリカには、アサド軍からクルド人を守るつもりがない」とフォードは言った。「クルド人を利用するアメリカは、政治的に愚かなだけでなく、反道徳的だ」
(翻訳:河原里香)