最新記事

シリア

アメリカはシリアを失い、クルド人を見捨てる--元駐シリア米大使

2017年6月20日(火)18時41分
トム・オコナー

トルコとの国境の町、シリアのダルバシヤで米軍に合図を送るクルド人兵士(4月28日) Rodi Said-REUTERS

<ISISが掃討されつつあるシリアでは、ロシアとイランの支援を受けたアサド政権が復活。シリアで影響力を死守しようとしたアメリカの努力はすべて徒労に終わる。代償を払わされるのは、アメリカを信じたクルド人だ>

シリア内戦はシリア政府とそれを支援するイランなどの外国勢力が勝利し、シリアで影響力を死守しようとしたアメリカにとってすべてが徒労に終わる。クルド人武装勢力は、ドナルド・トランプ米大統領に協力したことで今後大きな代償を払わされる──これが、アメリカの元シリア大使が描くシリア内戦の今後のシナリオだ。

バラク・オバマ政権下の2011~2014年にアメリカのシリア大使を務めたロバート・フォードは月曜、ロンドンに拠点を置くアラブ紙「アッシャルク・アルアウサト」の取材に対し、米政府が掲げるISIS(自称イスラム国)の撲滅とシリアでのイランの台頭を抑え込むという目標の達成に関して「オバマはトランプ政権にわずかな選択肢しか残さなかった」と言った。

イランとロシアはシリアのバシャル・アサド大統領を支援し、アサドの退陣を求める反政府諸勢力やISISなどのジハーディスト(聖戦士)に徹底抗戦した。その間にアメリカは、クルド人主体だが他の少数民族やアラブ人なども寄せ集めた反政府勢力「シリア民主軍(SDF)」を支援してきた。SDFはここにきて、ISISが「首都」と称するシリア北部の都市ラッカの奪還で快進撃を続けている。それでもフォードは、アサドを退陣させ、シリアでのイランの台頭を阻止するというアメリカの当初の計画について、「もう勝算はなくなった」と言う。

【参考記事】独裁者アサドのシリア奪還を助けるロシアとイラン

レバノン駐留米軍と同じ運命

「今後はイランの存在感が増す」とみるフォードは、今から2、3年後のシリアの勢力図を予想した。それによれば、シリア西部はアサドが支配を続け、シリア東部ではイランがアサド軍を支援し、最終的にアメリカを撤退させる。1980年代のレバノンで、イランが支援するシーア派のイスラム武装組織ヒズボラがアメリカを追い出したのと同じシナリオだ。

「勝ったのはアサドだし、アサドもそう思っているはずだ」とフォードは言う。アサドは欧米が戦争犯罪と非難した行為で罪に問われる可能性も低い。「恐らく10年以内に、アサドはシリア全土を取り戻すだろう」

フォードによれば、シリア内戦が幕を開けた2011年の時点で、オバマ政権は1つ致命的な過ちを犯した。オバマと当時国務長官だったヒラリー・クリントンは、シリアで大規模な反政府運動が起きている最中に、公にアサドの退陣を求めたのだ。アメリカが味方になると思えば、イラクでサダム・フセインを引きずり下ろしたように米軍が軍事介入してくれると信じ、アサド打倒のために武器を取る者たちが表れるのは目に見えていた。だがフォードには、アメリカが反アサド勢力が望む本格介入を実行に移すとは思えなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中