最新記事

インドネシア

イスラム急進派代表にポルノ容疑でインドネシアに問われるバランス感覚

2017年5月31日(水)16時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

「ポルノ規制法違反」容疑で追われるイスラム擁護戦線(FPI)の指導者、リジック代表(中央) Beawiharta- REUTERS

<キリスト教徒のジャカルタ前州知事アホックはイスラム教を冒涜した罪で有罪が確定し、アホックを批判していたイスラム教指導者は「ポルノ規制法違反」で国際手配中。「多様性のなかの統一」を国是に掲げるインドネシアの危ういバランシング・アクト>

インドネシアのイスラム教急進派組織の代表が警察から「ポルノ規制法違反」の容疑者に指定され、支持者からは「警察の不当捜査」と警察批判が高まる一方で、一般国民からは「イスラム教組織の指導者がよりによってポルノ違反とは不信心そのもの」と嘆く声が広がっている。

折しも、インドネシアのイスラム教徒は世界中の信者とともに重要な宗教行事である「ラマダン(断食月)」の真っ最中である。

ジャカルタ警察は5月29日、イスラム教組織「イスラム擁護戦線(FPI)」の指導者、ハビブ・リジック・シハブ代表を「ポルノ規制法違反」の容疑者とし、警察への出頭を命じた。

容疑は昨年、携帯電話のチャットアプリ「ワッツアップ」を通じて女性の知人、フィルザ・フセイン容疑者とわいせつな言葉のやり取りを交わし、その会話の画像がネットに拡散した、というものだ。

このリジック容疑者とフィルザ容疑者は共に昨年からテレビや新聞で大きく取り上げられてきた「時の人」で、インドネシアでは知らない人のいない"著名人"でもある。

「反アホック」運動の急先鋒

リジック容疑者は4月19日に決選投票が行われたジャカルタ特別州知事選で敗れたバスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)知事の「イスラム教冒涜発言」にいち早く反応して批判した人物。白装束で身を固めてアホックの辞任や逮捕を求める強烈なアジテーションでイスラム教徒を扇動、大規模デモや集会を組織した反アホックの急先鋒だった。


【参考記事】インドネシア・ジャカルタ知事選、宗教と生活困難が投票を左右


一方のフィルザ容疑者は社会財団の代表でリジック容疑者と親しく、2016年12月2日の反アホック大集会開催前に活動家らと社会不安を煽る大衆行動を画策したとして、政府転覆容疑で今年1月に逮捕された経歴を持つ(その後釈放)。

知事選で敗れたアホック氏はその後、「宗教冒涜罪」などに問われた裁判で禁固2年の実刑判決を受け、直ちに収監。10月まで任期の残る知事を辞職するとともに判決直後の控訴も取り下げた。

イスラム教急進派などからの攻撃で知事選で敗北し、実刑判決まで受けたアホック氏に対し、公正な裁判を求める支持者の声が燎原の火のごとく全国に拡大。インドネシアの国是でもある「多様性の中の統一」や「宗教の寛容性」が改めて問われた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中