プーチンを脅かす満身創痍の男
地方での選挙運動は歓迎されていない。シベリア西部トムスクでは、ナワリヌイの選挙ボランティアがアパートから出ることができなかった。何者かに自宅ドアを断熱材で塞がれ、車のタイヤも切り裂かれたからだ。
ナワリヌイ自身、ボディーガードを雇ったものの何度か襲撃を受けている。昨年5月にはロシア南部で愛国者集団のコサックと思われる人々に襲われた。今年3月には選挙活動中に緑の液体をスプレーされ、4月下旬にもモスクワで何者かに顔に緑の液体をかけられた。そのため右目は失明の危機にある。
国営メディアの検閲と不正選挙の疑いに加え、こうした妨害を行うことでプーチンは絶対に大統領選に勝つとナワリヌイは言う。それでも彼は政府に圧力をかけるため、選挙運動を続けている。
【参考記事】デモにシリアに内憂外患、プーチン大統領再選に暗雲か
孤立主義と反移民の主張
ナワリヌイ本人は「ロシアのドナルド・トランプ」と言われることが気に入らないが、はっきりと孤立主義と反移民の立場を取る。「われわれは欧米と素晴らしい関係を築くだろう」と彼は最近、支持者に語った。「しかし私の外交政策はロシアから始まる。まずは道路を造り、その後で軍事力について心配する。国民の年金額と最低賃金を引き上げてから、(シリアの)アサド政権を支援する」
ナワリヌイは12年まで、モスクワで毎年行われるナショナリストと極右の示威行動「ロシア行進」の常連だった。13年にはチェチェン人追放を求めるデモを支持し、北カフカスや中央アジア出身者への侮蔑発言もした。
ここ数年は反移民の発言を抑え、リベラル派の大幅な支持を得ている。それでも、ナワリヌイが反プーチンだとしても支持なんてしない、と話す人々もいる。「彼の汚職告発は重要な仕事だが、その政策はナショナリストのポピュリズムに基づく」と、有力なHIV活動家のアーニャ・サランは言う。「彼を支持する人たちは、やけくそでそうしているのだと思う」
たとえやけくそでも、ナワリヌイが多くのロシア人をデモに連れ出せる稀有な政治家なのは確かだ。彼は、6月12日の祝日「ロシアの日」にも全国で抗議行動を起こそうと呼び掛ける。
「ロシア市民がロシアの日にロシア国旗を掲げてデモに出る権利がないなら、あなた方はロシアを自分の財布にすることしか考えていないということだ」と、ナワリヌイは4月中旬にプーチンとメドベージェフに宛てたネット動画で述べた。
翌朝、警察がロシア中の反プーチン派の家に次々踏み込んだ。ナワリヌイの反応は? 「プレッシャーをかけ続けろ」だった。
[2017年5月23日号掲載]