プーチンを脅かす満身創痍の男
何十年も抗議活動を続けているナワリヌイだが、その名が知られだしたのは11年12月のロシア下院選挙後、不正に抗議する反政府デモが巻き起こったときから。ナワリヌイは後にモスクワ市長選に立候補し、敗れたものの30%近い票を得た。
若者世代がデモの主役に
反政府運動のために、彼は何度も短期の身柄拘束を経験している。13年には横領罪で有罪判決を受けながらも翌日に保釈され、後の抗告審判で執行猶予付きに減刑。14年には弟のオレクが汚職で有罪判決を受けた。
時間は要したがナワリヌイの主張は確実に浸透してきた。3月のデモは、政府にとっても想定外だったようだ。11~12年のデモはモスクワに限定され、年配の中流層が主な担い手だった。だが今回は各地でデモが巻き起こり、プーチン政権しか知らない若者世代が広く共鳴した。
「大人たちとは違い、私たちは誰もが検閲済みと分かっている国営テレビではなくインターネットから情報を得ている」と、サンクトペテルブルクの18歳の学生エレナは言う。「大人の多くは変化を諦めているが、私たちはいつの日か普通の国で生きるという希望を捨てていない」
ナワリヌイと支持者たちも、同じ希望を抱いてきた。彼らは大統領選出馬を目指し、各地に事務所を開設している。ナワリヌイによれば、3カ月間で2630万ルーブル(約45万ドル)の寄付金が集まり、7万5000人以上がボランティアに応募してくれたという。
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彼の選挙運動は既に、現代ロシアでは前代未聞の様相を呈している。アメリカなどとは異なり、ロシアの立候補者は一般的に、選挙の数カ月前までキャンペーンを始めない。プーチンに至ってはそんな暇などないと公言し、00年に政権に就いてから選挙活動らしきものをほとんど行わずにきた。対立候補と顔を合わせて討論したこともない。
だがナワリヌイが正式な候補者になるためには、途方もない障害を乗り越えなければならない。ナワリヌイは2月に横領罪で執行猶予付き懲役5年の有罪判決を受け、大統領選に出馬できるかどうかが危ぶまれている。5月初めには中部キーロフ州の裁判所が2月の判決を支持するとの決定を下した。
ロシアの法律では、刑事事件で有罪となった者は公職選挙への立候補が禁じられる。ただし憲法には、「収監されている市民は出馬できない」とあるため、ナワリヌイは自分が候補者になる資格はあると主張する。12月にはロシア中央選挙管理委員会が、その立候補の可否を判断するだろう(不都合な人物は立候補を阻止されるのが普通だが)。