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日英デザインデュオが仕掛ける、ごみから生まれたエコな美意識

2017年5月17日(水)10時00分
トム・モリス

彼らのプロジェクトには2つの特徴がある。自ら材料を集めること、そして魅力的なエコデザインを生み出すという使命だ。「美術学校にいた頃は持続可能性なんてダサいと思われていた」と、グローブスは話す。「でもデザイナーとして、その問題に取り組むべきだ。新しいものを作るだけでは先がない」

べっ甲の代わりに人毛を

2人は11年、ブラジル・サンパウロの街路で拾った空き缶でスツールのシリーズを制作した。14年には、大量の漂着ごみがあることで知られる北大西洋の還流海域でプラスチック片を収集し、太陽光を利用した機械で成形。これを素材にしたオブジェがロンドンの有名デパート、セルフリッジズで展示された。

同じ年、夫妻は中国東部にある人毛市場を訪れた。中国は世界最大の人毛輸出国だ。その事実を背景に「現代版シルクロード」を主題とする映像作品を制作。その後、人毛と樹脂を組み合わせてべっ甲状の模様の素材を作り、上海アールデコ様式の化粧用具や家具に変身させた。

それらすべてに共通するのは強い美意識だ。「サステナブルかつ美しいものを作り出せると信じている」と、グローブスは言う。「誰も欲しがらない製品なら存在意義がない」

必要な分だけ作るとの方針を貫く彼らの作品は、ほとんどがプロジェクトのための限定品。商売は二の次らしい。「売れなくていいという気持ちがある。業界に取り込まれて、好きなことをする自由を失いたくない」と、村上は語る。

【参考記事】最新技術が魅せる伝統美 MOA美術館、杉本博司監修でリニューアル

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エコ製法の硬質ゴムを用いた「フォードランディア」チェア Petr Krejci

とはいえ評価が高まるにつれて、状況は変わりつつある。スタジオスワインは先頃、パブリックアートの制作委託を行うフューチャーペースと契約。第1弾の作品として、ロンドン中心部の再開発地区に設置するベンチを手掛けることになった。

スタジオスワインは、デザインの持続可能性の在り方と業界そのものを変えようとしている。ただし、2人のやり方は時間もカネもかかる。「パトロン」(グローブスはCOSとのコラボレーションをそう呼ぶ)の存在は、真の実力を世界に知らしめるチャンスにつながるだろう。

「常に大きなことをやろうとしているけれど、現実的に見れば、自営業的スタイルでそれを実現するのは難しい」と、村上は言う。「でも、大切なのはとにかく始めること。ビーチでのごみ拾いが、いずれは北大西洋での作業につながる」

その先に待つのは、世界という舞台だ。

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[2017年5月16日号掲載]

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