結局は中国を利するトランプの素人外交
先月末に就任100日を迎えたトランプ大統領だが外交政策の舵取りはいまだに素人レベル Jonathan Ernst-REUTERS
<強気の発言はどこへやら、右往左往する素人集団のトランプ政権。一貫性を欠く政策に同盟国の信頼は揺らぐ一方だ>
ドナルド・トランプ米大統領がフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領をホワイトハウスに招待した。ドゥテルテといえば、麻薬戦争で殺人も辞さず、「犯罪者」を自分の手で殺したと豪語するなど、人権侵害が問題視されている人物だ。
それでもアメリカの重要な同盟国の指導者には違いない。トランプは(歴代の米大統領と同様)倫理的な懸念よりも戦略的インセンティブを優先し、アジア・太平洋という極めて重要な地域で現実的な政策を推進しているにすぎない――。そうした見方もあるかもしれない。なるほど、表面的には現実政治の典型に見えなくもない。
しかしそうした見方は現実とは懸け離れている。リアリスト(現実主義者)にとって、アメリカの安全保障のカギは、南北アメリカ大陸で地政学的優位を堅持し、競合国がヨーロッパやアジアの要所を支配したり、ペルシャ湾周辺の主要なエネルギー資源を牛耳ったりしないようにすることだ。アメリカを除けば、世界で現在「地域覇権国」となる可能性がある国はただ1つ――中国だ。
従って、リアリストにとってアジアにおける最優先課題は、中国がアジアでの優位を強化し、最終的には周辺国にアメリカとの安保協力を破棄させるのを阻止することだろう。協力を破棄されたら、アメリカは西太平洋や東南アジアで大規模な軍事プレゼンスを維持できず、中国が事実上の地域覇権国になるはずだ。
中国はやがて今のアメリカのように他の地域でも意のままに力を誇示するようになり、南北アメリカでも安保協力を確立しようとさえするかもしれない。
当然、アジアにおける現実主義的アプローチは、アメリカが中国の動向に目を光らせ、時にはアジアの協力国と微妙な均衡の上に巧みに連携していくことを必要とする。これは難題で、一貫性と慎重な判断と賢明な外交、それに信頼できる軍事力が必要だ。トランプ政権になっても軍事力はまだ十分残っているが、それ以外の資質は十分とはいえない。
不信感を募らせる同盟国
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トランプのこれまでの言動を振り返ってみよう。まず就任前、祝意を伝える台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統からの電話を受けて、台湾を中国の一部と見なす「一つの中国」政策の見直しを示唆したが、その後に撤回。就任4日目にはTPP(環太平洋経済連携協定)離脱を指示する大統領令に署名し、アジアの多くの国々との関係強化につながる重要な協定を台無しに。合意に尽力した各国指導者たちの国内での支持や影響力に打撃を与えた。