沖縄の風俗業界で働く少女たちに寄り添った記録
まずは女性たちと著者との距離感である。先にも触れたとおり、著者はひとりひとりにきちんと寄り添い、それぞれの事情を我がことのように受け止めながら取材を行なっている。まさに理想的なスタンスであるのだが、そうであるがゆえに、時として寄り添い過ぎているように思えることもあった。
全体的に、女性側からの視点が重視されすぎているように思えるということ。「この女性は気の毒だから」と、一緒に身を寄せ合って周囲に目を配っているような印象が強く、取材者としてのスタンスがやや希薄であるように思えたのだ。
寄り添いつつ、適所であえて相応の距離を保つことができていたなら、リアリティはさらに立体的になったかもしれない。
そしてもうひとつ。これはデリケートな問題だから表現するのが難しい部分もあるのだが、「なぜ沖縄なのか?」をもう少し掘り下げてほしいという思いも残った。
間違いなく、劣悪な環境から逃れて風俗の世界に足を踏み入れた彼女たちの半生は、それだけで訴えかけるものがある。しかし、各人の足跡を奥深く掘り下げているにもかかわらず、その原点であるはずの「沖縄だから、こうなったのだ」というようなバックグラウンドについての記述が少ないのだ。
本土に生まれ、本土で育ってきた人間として、皮膚感覚として受け止める機会の少ないその部分についてはもっと知りたかった。沖縄の人にしか表現できない知見がほしかったのである。
【参考記事】辺野古に反対する翁長沖縄知事が「変節ではない」理由
『裸足で逃げる――沖縄の夜の街の少女たち』
上間陽子 著
太田出版
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダヴィンチ」「THE 21」などにも寄稿。新刊『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)をはじめ、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)など著作多数。