ヨーロッパを遠ざけロシアを引き寄せたトランプのNATO演説
「弱い者いじめ」に終始したトランプの演説には同盟国首脳も困惑 Jonathan Ernst-REUTERS
<ヨーロッパの同盟諸国に対し、応分の防衛費を払えとしつこく言うだけで、集団防衛の確約は与えないトランプのやり方はロシアを喜ばせただけ>
ドナルド・トランプ米大統領は、昨年の大統領選期間中、NATO(北大西洋条約機構)を「時代遅れ」と批判し、応分の防衛費を負担しない加盟国を防衛する義務はない、と主張した。今週25日、ベルギー・ブリュッセルで開催されたNATO首脳会議で、加盟各国は大統領として初の出席となるトランプの後ろ向きな姿勢が変わるかどうか注視していた。とりわけ、NATOの根幹となる「集団防衛」義務を守ると言って欲しかったのだが、期待は見事に裏切られた。
完成したばかりのNATO新本部で演説したトランプは、加盟各国の首脳らが明らかに困惑した表情を浮かべるなか、各国が応分の防衛費を負担していないと厳しく批判した。トランプの大統領就任以降、アメリカとヨーロッパの同盟国との間にはぎくしゃくした関係が続いているが、トランプに関係修復の意思はみられなかった。
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「アメリカの納税者にとって不公平だ」と、トランプはさらに続けた。「多くの加盟国は長年の借りがあり、返済する様子もない」(NATOには国連のような分担金はないので、トランプが正確に何の話をしているのかは不明)
ロシアの脅威は無視
GDPの2%を防衛費として負担するというNATOの基準目標を現時点で満たしているのは加盟28カ国のうち5カ国(アメリカ、イギリス、ポーランド、エストニア、ギリシャ)だけ。それがアメリカと欧州加盟国との間で長年未解決になっていたことは事実だ。
しかしトランプは、NATOの存在価値に疑義を呈し、ヨーロッパの地政学的脅威であるロシアをあからさまに称賛したことで、米欧間に新たな緊張をもたらしている。
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もう一つの重大なシグナルは、NATO加盟国が攻撃を受けた場合、他のすべての加盟国が防戦すると規定したNATO条約第5条項(集団防衛)の意義について、トランプが明言を避けたことだ。第5条は、1949年のNATO発足以来の統合と抑止力の要だ。
トランプが演説でこの原則への支持を明言しなかったことは、攻撃を受けてもアメリカが防衛に参加しないのではないかと不安を感じるNATO諸国を、さらに動揺させている。
テロの脅威に言及した一方で、ロシアの脅威には触れなかった。特にバルト三国にとっては、ロシア軍の侵攻は現実の脅威だ。いざというときは米軍が頼りだが、トランプは何の保証も与えなかった。