最新記事

タイ

タイが中国から潜水艦購入を閣議決定  中国への配慮?から公表せず

2017年4月27日(木)19時10分
大塚智彦(PanAsiaNews)

中国海軍の潜水艦「長城」(山東省青島、2009年) Guang Niu-REUTERS

<タイ政府が、軍政悲願の潜水艦を中国から購入すると決めたが、すぐに公表しなかった。潜水艦など金の無駄遣いという国民感情に配慮したか、中国の事情か、議論の的になっている>

タイが中国から潜水艦1隻を購入することが4月18日の閣議で決定した。24日にタイ政府筋がもたらした情報で明らかになった。閣議決定事項にも関わらず政府が公表を避けたことについてタイ軍政は「地域の安全保障にかかわる極秘事項だったため」としているが、国民の間からは早くも「潜水艦不要論」が噴出、「中国への特別配慮」と同時に国民の反発を回避するために「秘密裏に閣議決定」した可能性もあると軍政への不満が高まっている。

【参考記事】中国潜水艦マレーシアに初寄港──対米戦略に楔(くさび)、日本にも影響

タイ海軍は第二次世界大戦前の1936年に三菱重工製の「マッチャーヌ級」潜水艦4隻を日本から導入。戦後日本の武器禁輸で部品調達が困難となり、いずれも1951年に退役。これがタイでの最初で最後の潜水艦で以後タイは潜水艦を保有していない状態が続いていた。

しかし潜水艦保有はタイ海軍の長年の念願。2008年~2009年にかけて潜水艦計画が浮上したものの中止となり、2012年にはドイツから中古の潜水艦6隻を購入する計画を政府に提示するも、当時のインラック首相が「潜水艦などタイには不要」と却下された経緯がある。

【参考記事】ペット犬の名は「空軍大将」、タイ次期国王の奇行の数々

それでも潜水艦保有を断念できないタイ海軍は2014年7月、東部チョンブリ県サタヒープにある海軍基地内に「潜水艦部隊司令部」として本部建物と訓練施設を建設、当時のナロン海軍司令官が出席して盛大な開所式を行った。

タイのマスコミなどは「潜水艦のない潜水艦司令部」と皮肉を込めて報道したが、海軍はひるむことなく、着々と導入計画を進め、その機会を虎視眈々と狙っていた。

クーデターでの軍政誕生が追い風に

転機は2014年5月の軍事クーデターでプラユット軍事政権が誕生したことだった。軍人政権に期待した海軍は2016年6月には中国、仏、独、露、韓国、スウェーデンの6カ国による国際入札を実施。「性能面に加えて中国側が提示した条件、価格などの優遇措置」の結果、中国からの導入が決まった。

一説では「中国から2隻購入すれば3隻目は無料となる」「潜水艦搭載のミサイルは無料提供する」など、通常では考えられない「オファー」が中国側からあったとされている。

【参考記事】インドネシア高速鉄道、中国の計算

2017年1月に明らかになった計画では、購入するのは中国海軍の「元級」潜水艦の対外用型「S26T」通常動力型潜水艦。性能諸元は排水量が水上1850トン、水中2300トン、最大速力18ノット、航続距離8000カイリ、533mm魚雷発射管6本で価格は1隻135億バーツ(約430億円)という。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、復活祭の一時停戦を宣言 ウクライナ

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 5
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中