知っておきたい、インサイダー取引になる場合・ならない場合
4.知りながら【故意】
この「知りながら」という曖昧な言葉には、重要事実(インサイダー情報)だと明確にわかっていた場合(=故意)だけでなく、「インサイダー情報に該当するかどうかわからないが、該当したとしても構わない」という認識(法律用語でいう「未必の故意」)も含みます。
■「うっかりインサイダー」にご用心
先ほどご説明したとおり、重要事実(インサイダー情報)になるかどうかの基準は複雑なので、よく理解せずに取引をして、結果としてインサイダー取引になる場合があります。
たとえば2005年には、国外にある子会社の解散を「重要事実ではない」と誤解して自社株を取引したことで、4,000万円を超える課徴金命令が出ています。このように「うっかり」という弁解が通用しない場合もありうるのです。
■「知る前の契約」「知る前の計画」ならOK?
密かに重要事実がある企業の株式について、重要事実のことを知らずに将来売買するつもりで契約や計画を進めていたならば、たとえ実際に売買した時点では重要事実を知っていたとしても、例外的に「知りながら」には含まず、インサイダー取引とはしません。
ただし、この場合の契約書や計画書は、事前に書面(紙)で残しておく必要があります。
5.公表の前【規制される期間】
重要事実の公表は、法令に定められた方法で行う必要があります。
・2社以上の報道機関に公開、その後12時間の経過
・TDNet(適時開示情報閲覧サービス)への掲載
したがって、記者やライターなどの独自ネタとして、新聞や雑誌、ネットメディアなどに上場企業の重要情報が掲載されたとしても、それは会社の意思による「公表」といえないので、会社関係者は、まだ自社株を売買してはいけません。
■公表された"直後"ならOK?
公表直後であれば「公表の前」には該当しないので、売買してもインサイダー取引とはなりません。ただし公表したばかりでは、まだ内部者と一般人との情報格差が埋まっているとはいえない段階なので、東証は「十分な配慮をいただきたい」と呼びかけています(平成16年1月16日・東証上サ第19号)。
(参考記事)鍋敷きにしない『四季報』活用法 見るべきはページの"隅っこ"
6.取引【規制される行為】
インサイダー取引として規制されるのは、自分の意思による売買などで、株を入手したり手放したりする行為です。したがって、贈与や相続で取得した株式については規制されません。
インサイダー取引に一歩近づく例
・合併や会社分割によって株を引き継いだ
・デリバティブ取引
・売買したけど利益が出なかった、あるいは損をした(取引がうまくいったかどうかは関係なく、インサイダー取引になりえる)
・1株(または1単元)しか買っていない(取引の数量は関係ない)
・買った(売った)けれど、まだ利益確定をしていない
"確実に"回避する方法
繰り返しになりますが、「会社関係者等(第一情報受領者)」「上場会社等」「重要事実」「知りながら」「公表の前」「取引」、すべてのNGな条件を満たしてはじめて、インサイダー取引の罪に問われうるわけです。
ただし、ここには書き切れないだけで、微妙な例外規定も山ほどあります。また、捜査当局とのちょっとした「見解の相違」が生じただけで、検挙の憂き目に遭うかもしれません。すべての取引は金融庁の監督下にあります。怪しいと思われたら、本人や家族はもちろん周りの取引履歴まで調べ上げられます。後ろめたい取引は必ずバレると思ったほうがいいでしょう。
というわけで、インサイダー取引かどうか迷ったら、「迷うぐらいなら手を出さない」という安全策が何よりも重要となります。安易な儲けに目がくらんで、くれぐれも金融商品取引法なんかにつまずかないよう、楽しい投資ライフを送ってください!
[筆者]
長嶺超輝[ながみね・まさき]
法律・裁判ライター。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。30万部超のベストセラー『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)のほか著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)----こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。