トランプの危険な黒幕バノンの命運も尽きた
例えば、彼が中心となって急いで書き上げられた入国制限の大統領令。拙速な内容が大混乱を招き、トランプ政権は発足早々批判の嵐にさらされた。バノンはわざと左派を挑発したのかもしれない。左派が反発して騒ぎ立てれば、左右の亀裂が再びあらわになり、トランプ支持の熱狂がよみがえる、と。
残念ながらその読みは外れ、トランプの支持率は下がった。入国制限の公約がトランプを勝利に導いたことを考えると、これは明らかな作戦ミスだ。
さらにトランプ政権の大きな失点となったオバマケア(医療保険制度改革)改廃法案の撤回。ここでもバノンのゴリ押しが裏目に出た。成立のカギを握る下院共和党の保守強硬派の票を確保しようと、最後通告を突き付けたのだ。法案を支持しなければトランプ大統領の恐ろしい怒りを買うことになるぞ、と。
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脅迫じみた働き掛けは逆効果だった。強硬派は反対に回り、成立の望みを断たれたトランプ政権は泣く泣く法案を取り下げた。今や共和党議員の大半は選挙区でトランプよりも高い支持率を誇っている。彼らはトランプの怒りなど怖くないのだ。
危険な極右の親玉どころか、今のバノンはぶざまな敗残者だ。今後NSCを牛耳るとみられるマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)ら、既成政治家が好む「まともな人材」が次々に政権の中枢に納まっている。彼らは世界変革を夢見る野心家ではないが、やるべき仕事をきちんとやる。もはやバノンの出番はなさそうだ。
© 2017, Slate
[2017年4月18日号掲載]