最新記事

監督インタビュー

ファッションは芸術たり得るか? 汗と涙のドキュメンタリー『メットガラ』

2017年4月17日(月)12時20分
大橋 希(本誌記者)

「メットガラ」には毎年、世界的なデザイナーやモデル、人気俳優など大勢のセレブが集う ©2016 MB Productions, LLC

<ニューヨーク・メトロポリタン美術館のファッションイベント「メットガラ」の舞台裏を描く『メットガラ ドレスをまとった美術館』のアンドリュー・ロッシ監督に聞く>

毎年5月の第1月曜日に、ニューヨークのメトロポリタン美術館(MET)で開催される「メットガラ」。美術館の服飾部門のための資金集めパーティーで(席料は1人あたり2万5000ドル!)、世界的なデザイナーやモデル、人気俳優など大勢のセレブが集うことで注目を集める。ガラの直後に服飾部門の企画展が始まるのが恒例で、15年は「鏡の中の中国(China: Through the Looking Glass)」展が開催された。

この華やかなガラと「鏡の中の中国」展の舞台裏に迫ったドキュメンタリー映画『メットガラ ドレスをまとった美術館』が4月15日に日本公開された。カメラが追うのは、ガラを主催する米ヴォーグ誌編集長アナ・ウィンターと、展覧会を担当する服飾部門キュレーターのアンドリュー・ボルトンだ。

監督のアンドリュー・ロッシはさまざまなドキュメンタリー作品を手掛けてきた人物。数々の問題を乗り越えながら2人が準備を進めていく姿をとらえ、「ファッションは芸術たり得るか?」という問いへの答えを探っていく。ロッシに話を聞いた。

◇ ◇ ◇


――『メットガラ ドレスをまとった美術館』の製作のきっかけは。

14年にアナ・ウィンターの事務所から連絡があった。僕が作ったニューヨーク・タイムズ紙についてのドキュメンタリー映画『ページ・ワン』をアナが気に入ってくれたようだ。

彼女は何年も前から、メトロポリタン美術館衣装研究所についての映画を作りたいと思っていたという。アナに密着したドキュメンタリー『ファッションが教えてくれること』(09年)は当初、この衣装研究所を描く予定だった。でも美術館の中で撮影することなどが難しく、R・J・カトラー監督は違う方向に転換した。

僕自身はこの話をもらったとき、世界的な宝物であり、素晴らしい文化的機関であるMETの裏側をのぞけることがうれしかった。同時に、「アートとは何か」「ファッションはアートの1つなのか」といった問題をきちんと掘り下げるものを作りたいと思った。

僕はこうした大きな文化機関や、大きなアイデアの裏側に入り込み、それを解き明かしていく作業が好き。服飾部門はMETの中でも既成概念を壊すような存在であることも面白かった。文化機関といえば、アナ自身もそう。『ファッションが教えてくれること』や『プラダを着た悪魔』では、典型的な押しの強い女性エグゼクティブ/編集者として描かれているが、そうした神話を自分なりに説明してみたいとも思った。

【参考記事】『アドバンスト・スタイル』が教えてくれるもの

metgala02.jpg

米ヴォーグ誌編集長アナ・ウィンター(左)とMET服飾部門キュレーターのアンドリュー・ボルトン ©2016 MB Productions, LLC

――アナはニューヨークでいちばん好きな場所はMETと言っている。

アナはMETの理事で、服飾部門には自分の名前を冠したギャラリー(アナ・ウィンター・コスチューム・センター)もあるから、庇護者としての強い思いがあるはず。

ファッションを芸術ととらえ、ファッションが表現できることを追求していきたい、そんな自分と同じ思いを持つ人々が集まれる場所にしたいのだろう。そうしたコミュニティのためにも、自分の役割が大切だと考えている。特に今は、「METで衣装を着たマネキンを見ること」と競合する娯楽がたくさんある時代。だからこそ、自分の役割を真剣に受け止めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中