最新記事

中東

トルコを脅かすエルドアンの「ありふれた」独裁

2017年4月14日(金)10時45分
エリオット・アッカーマン(作家、ジャーナリスト)

ただし、再度の総選挙で過半数の議席を回復するには、AKPにとって有利な国内情勢をつくり出す必要がある。11月までにいかにそれを実現するか? AKPが見つけた答えが、クルド人との対立激化だ。6月の総選挙で、エルドアンの野望を阻止しようとクルド系のHDPに投票した有権者を取り込むことが目的だった。

15年7月、エルドアンは武装組織クルド労働者党(PKK)の拠点の空爆に踏み切る。首相時代の最大の実績の1つで、13年に実現した政府とPKKの停戦を自ら破ったのだ。

アメリカは停戦を支持していたにもかかわらず、戦闘再開に対してほとんど反応を示さなかった。時折聞こえてきたトルコ情勢関連の発言は、エルドアン寄りのものばかりだ。

PKK拠点への空爆開始直後の15年7月下旬、テロ組織ISIS(自称イスラム国)掃討を目指す有志連合のブレット・マガーク米特使はこうツイートしている。「トルコ内でのPKKによるテロ攻撃を強く非難し、同盟国トルコが自国を守る権利を完全に支持する」

【参考記事】突然だったシリア攻撃後、トランプ政権に必要なシリア戦略

国際社会は無関心のまま

その理由の1つは、エルドアンがアメリカの望みどおりの決定をしてくれたことにある。

6月の総選挙の前から、米政府はシリアでのISIS掃討作戦展開のため、トルコ南部にあるインジルリク空軍基地の使用を許可してほしいと求めていた。トルコ側はこの要請を拒否し続け、アメリカ主導の有志連合への参加も拒んでいたが、総選挙のわずか数週間後に米軍による基地使用を承認。対ISIS空爆作戦への参加も決断した。

エルドアンはヨーロッパ各国の「黙認」を取り付けることにも成功した。膨大な数のシリア難民の流入に悩んでいたEUは、中東と欧州の間に位置する国として難民・移民対策のカギを握るトルコの協力を得るべく、批判を控えるようになった。

クルド人との戦闘と新たに開始された選挙戦が同時進行するなか、15年の夏と秋は過ぎていった。エルドアンは、AKPが過半数議席を占めることが政治の安定の要であり、トルコにとって最も安全な道だと主張した(不安定状態の主な要因は彼自身の政策にあったのだが)。

そのおかげか、11月初めに実施された再度の総選挙でAKPは過半数議席を回復した。その後に続いたのがメディア、学界、司法や軍を標的にした政治的弾圧だ。たまりかねた軍の一部は昨年7月半ばにクーデターを画策したが、失敗に終わった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

不確実性高いがユーロ圏インフレは目標収束へ=スペイ

ビジネス

スイス中銀、必要ならマイナス金利や為替介入の用意=

ビジネス

米新政権の政策、欧州インフレへ大きな影響見込まず=

ワールド

EU外相「ロシアは安保の存続に関わる脅威」、防衛費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 8
    トランプ新政権はどうなる? 元側近スティーブ・バノ…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    米アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが大型ロケット打ち…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中