黒人少年の内面の旅にそっと寄り添う『ムーンライト』
ロマンチックな幕切れ
アシュトン・サンダース演じる高校時代の主人公は本名のシャロンで通っているが、相変わらず気弱で同級生にいじめられている。シャロンを気遣うのは幼なじみのケビン(ジャハール・ジェローム)だけだ。
ある晩、人気のない浜辺で2人はマリフアナを吸い、キスをし、性的な関係を持つ。カメラが繊細に捉えるその営みは、愛に飢えたシャロンにとって魂を揺さぶられるような体験だ。
だがその翌日、学校でシャロンと会ったケビンはシカトするばかりか、ゲイ嫌いの同級生たちにそそのかされ、あまりにむごい振る舞いに及ぶ。
そして第3部。大人になったシャロンは「ブラック」と呼ばれている(トレバンテ・ローズが繊細に演じる)。ブラックは彼が父親のように慕っていたフアンそっくりのマッチョな麻薬密売人となり、羽振りはいいが孤独な日々を送っている。そこに突然、ケビンから電話がある(アンドレ・ホーランド演じる大人のケビンは何とも言えず魅力的な男だ)。
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2人がどんな会話を交わし、どうなるかは映画館で見てほしい。1つだけ明かせば、ダイナー(食堂)のジュークボックスでの場面は、04年の映画『ビフォア・サンセット』に匹敵するロマンチックなシーンだ。
「黒人の命だって大事だ」運動が広がる一方で、性的・人種的マイノリティーの運動に対する反動の嵐が吹き荒れる今、この映画は不公正を声高に糾弾するのではなく、1人の黒人少年の内面に寄り添い、かすかな心の揺れをそっと見守り続ける。
ハリス、アリ、モネイ、そしてホーランドの情感豊かな演技のおかげで、周囲の人々がシャロンに注ぐ愛情が切ないほど伝わってくる。自分の生き方と性的アイデンティティーを模索するシャロン。彼の居場所探しがかけがえのない物語になるのは、彼自身がかけがえのない存在だからだ。
教育や社会、法的な制度は時に彼に過酷であっても、彼を愛する少数の人々にとって、彼はとても大切な存在だ。この映画が魅惑的なラストを迎える頃には、観客にとっても彼は大切な存在になっている。
© 2017, Slate
[2017年4月11日号掲載]